Review | フィリップ・ロッケンハイム『ダイナソーJr. / フリークシーン』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。気がついたら月半ばも過ぎてしまった!4月ってどうしてかソワソワして落ち着かない季節ではあるのですが、仕事も忙しかったり、楽しい旅行に行ったりでなかなか時間がなかった最近。何について書こうか今月はこれといった思いつきがなく……。

 とは言え、まあ映画はいろいろ観ていまして、特に近年はすっかりお楽しみ行事になってる「アカデミー賞」があったので、作品賞ノミネート作品なんかを中心にちょこちょこ観ていました(肝心の受賞内容はビンタ事件でなんかぼんやりしてしまった感がありますが……)。しかし、この場でアカデミー関連の作品について私が書く必要はあるのだろうか?! とか思ったり、思わなかったり……。『ザ・ビートルズ: Get Back』(ピーター・ジャクソン監督)観たさに「ディズニー・チャンネル」に入っちゃったから、ピクサー作品を観まくったんだけど、じゃあピクサーについて語るか?! うーん、おもしろいこと書けそうにないじゃん!ってな問答をひたすら繰り返していたら時間だけが流れていくのでした。やれやれ。

 今、私は一人渋谷の回転寿司屋に入って考えている。土曜の渋谷は昼にひとりでちょこっと食べて飲めて、落ち着けるお店がないよね。格別な美味しさとかおしゃれさは要らないのよ。多くは求めてないから。ファミレスみたいなほっといてくれる場所がいいんだけど、ファミレスより美味しくないと嫌なのですっ!

 さて、どうでも良い話は置いておいて、気楽にいきましょう。DINOSAUR JR.のドキュメンタリーが公開されたのでそのお話をしますね。
作品概要↓

切なく哀愁を帯びたメロディを殺伐とした轟音で包み込む、アメリカン・オルタナティブ・ロックの核をなしたバンド、ダイナソーJr.初のドキュメンタリー映画が遂に日本上陸。80年代 USハードコア / パンクの直撃を受けた面々によって1984年、マサチューセッツ州で結成されたバンドの歴史を、オリジナル・メンバーであるJ・マスキス(G., Vo.)、ルー・バーロウ(B.)、マーフ(D.)の三人の関係性にフォーカスしながら貴重な過去のフッテージを交えて描く、バンド自身が製作に関わったバンド公式の映画作品だ。
――オフィシャル・サイトより

 これはちょっとだけ楽しみにしていたんですね。世代的に所謂オルタナとかグランジという名称で括られる一連のUSロックがドンピシャなブームでしたので。DINOSAUR JR.は当時好きでよく聴いていたけれど、もしかしたら再結成した今のほうが思い入れがあるかもな。そもそもバンドの再結成って全然興味がなくて、ちょっと斜めから見ちゃうところもあるんですが、例外もありますよね。DINOSAUR JR.はその好例じゃないかと思っています。ちゃんと新作もリリースしてるし、もはや再結成後のキャリアのほうが長いんじゃない?

Photo ©sunny sappa

 自分が高校生のときにリアルタイムで聴いたのが『where you been』(1993, Blanco Y Negro | Sire | Warner Bros. Records)とか『Without A Sound』(1993, Blanco Y Negro | Reprise Records | Sire)だったからもう既にJ Mascisのひとり時代でした。Lou BarlowはSEBADOHやTHE FOLK IMPLOSIONだったし、映画『KIDS』のサントラもやってたりしていた時代です。ダイナソーはね、やる気のなさそうな声が良かったんですね。轟音ノイジーだけどメロディラインがポップ、あとはギター・ソロの哀愁イメージも強かったな。ただ、そこから過去の作品を遡って聴くと、『Youre Living All Over Me』(1987, SST Records)や『Bug』(1988, SST Records)のほうが断然ハマったんですよね。映画のタイトルになっている「Freak Scene」をはじめ、「Little Fury Things」や「In a Jar」「The Lung」といったキャッチーなナンバーもあったし、サウンドもやっぱり違うから、それも体感的にはあったと思います。当時メンバーについて深掘りすることはなかったものの、その後に「あーそーか!この3人だったんだな!!」となったんです。ウチに再結成したときのライヴDVDがあります。10年くらい前かな?夫がどこかから中古で買ってきたもので、それを偶然観たのも大きかったです。めちゃめちゃ良くてね。映画の劇中でもこのライヴ映像は使われていますが、なんとDVDも映画と同じフィリップ・ロッケンハイムさんが監督されたものでしたよ(ちなみにこのかたはJの奥さんの弟さんだそうです)!

Photo ©sunny sappa

 「バンドとは……」って事あるごとに考えちゃうんですけど、『ダイナソーJr. / フリークシーン』もまさにそんな感じでした。まず、ずっと仲良くメンバー・チェンジなしで何10年も続けていて、ましてやクオリティを保った新作をコンスタントに出せてる奇跡的なバンドってどれだけあります?RADIOHEAD?そーだよね。サザンとか?そーだよね。まあ、奇跡とまでは言わずとも圧倒的に少ないんじゃないかな。人間関係、ヴィジョンの違い、モチベーションの違い、お金の格差、技術の格差…… etc.。これはバンドとかエンタメ系に限らず、スポーツ・チームや学校、仕事のチームでも同じで、挙げたらキリがない軋轢の要因はまさに社会の縮図と言えようか……。ただし、何かひとつの条件だけが他の問題をクリアしてくれる場合はありますね。わかりやすいのはお金。お金は大事。大御所バンドが解散しにくい傾向にあるのはこのためだと思ってます。逆に、ひとつの悪因が全てをぶち壊すケースが人間関係ではないでしょうか?人間関係が最悪だと、もうどうにもならないでしょう。一緒にいたくないわ、話したくないわってわけだから普通は成立しないと思うんですが、そこを乗り越えず、飛び越えちゃったバンドがDINOSAUR JR.なんです。仲の悪さを修復せずに再結成に大成功!こっちの方ががまさに奇跡のバンドだわ~。

 「バンドは家族だけど、彼らは機能していない家族」と映画の中でキム・ゴードンが形容していたように、この3人っていまだにプライベートのコミュニケーションはほとんどないらしいんです。でもステージ上ではバッチリなんだから、もうそれだけで最高じゃないですか。少なくとも音楽上での信頼関係はあるってことだし。とにかく抜群に安定している今のダイナソー!割り切った関係性だからこそ精力的な活動が継続的にできるっていうのもあるのかもね。うーん、その選択、大人だなぁ。

 我が道を行く天才Jはその風貌もユニークおじさん(Lee Perryとかの系譜とも言える……)としてかなり仕上がっていて、そのキャラクターも大好きです。空港で偶然会ったことがあって、握手を求めたら面倒臭そうに対応してくれたのが懐かしいな。でっかい亀のような人でしたよ。

 そして今年、DINOSAUR JR.は「FUJI ROCK FESTIVAL ’22」に出演とのことで実に楽しみです!

『ダイナソーJr. / フリークシーン』 | ©1994 2020 by Rapid Eye Movies/ Virus Films / Dinosaur Jr. Inc.■ 2022年3月25日(金)公開
『ダイナソーJr. / フリークシーン』
東京・シネマート新宿, シネマート心斎橋ほか
https://dinosaurjrmovie.com/

[出演]
ダイナソーJr.(J. マスキス, ルー・バーロウ, マーフ)
キム・ゴードン(ソニック・ユース) / ヘンリー・ロリンズ(ブラック・フラッグ) / ボブ・モールド(ハスカー・ドゥ) / サーストン・ムーア(ソニック・ユース) / フランク・ブラック(ピクシーズ) / ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン) / ソニック・ブーム(スペースメン3) / マット・ディロン

[監督]
フィリップ・ロッケンハイム

製作: ステファン・ホール / アントワネット・コスター / フィリップ・ロッケンハイム
共同製作: ダイナソーJr. / J. マスキス

提供: キングレコード
配給: ビーズインターナショナル
2020年 | 82分 | ドイツ・アメリカ合作 | 原題:FREAKSCENE the story of Dinosaur Jr.
©1994 2020 by Rapid Eye Movies/ Virus Films / Dinosaur Jr. Inc.

DINOSAUR JR. 'Sweep It Into Space'■ 2022年4月23日(土)発売
DINOSAUR JR.
『Sweep It Into Space』

国内盤CD JAG366JCD 2,400円 + 税

[収録曲]
01. I Ain’t
02. I Met The Stones
03. To Be Waiting
04. I Ran Away
05. Garden
06. Hide Another Round
07. And Me
08. I Expect It Always
09. Take It Back
10. N Say
11. Walking To You
12. You Wonder

sunny sappa さにー さっぱ
Instagram

sunny sappa東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。