Review | ギヨーム・ブラック『みんなのヴァカンス』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。あっという間に8月も終わってしまいました。みなさんにとって今年はどんな夏でしたか?私は3年ぶりに「FUJI ROCK FESTIVAL」に行って、「やっぱりめちゃ楽しいーーー!!!」ってなって、絶賛フジロスです(あ、ダイナソーも最高でしたよ笑!)。久しぶりに海でDJもしたし、数年ぶりに近所の盆踊りなんかも開催されていましたね。あとは娘の宿題がラスト3日で大変なことになっていたとか……やれやれ。

 さて、今月は夏の終わりに似つかわしい作品をご案内。とってもサンパ(フランス語でいい感じ!)なフランス映画、その名も『みんなのヴァカンス』。この映画、界隈でやや話題だったので、念を入れて1時間前にユーロスペースの窓口で当日券を買おうとしたら、なんと最後の1席でした!満席!! あらすじざっくり↓

夏の夜、セーヌ川のほとりで、フェリックスはアルマに出会い、夢のような時間を過ごす。翌朝、アルマはヴァカンスへ旅立ってしまう。フェリックスは、親友のシェリフ、相乗りアプリで知り合ったエドゥアールを道連れに、彼女を追って南フランスの田舎町ディーに乗りこむ。自分勝手で不器用なフェリックスと、生真面目なエドゥアール、その仲を取り持つ気の優しいシェリフ。
サイクリング、水遊び、恋人たちのささやき。出会いとすれちがい、友情の芽生え……。3人のヴァカンスも、みんなのヴァカンスも、まだはじまったばかり――。

――公式サイトより

 あれ、こんな感じなんだか久しぶり。気軽に観られて、笑えて、多幸感と切なさが入り混じる余韻が心地良い。何より今回は満員の劇場で鑑賞出来たのも良かったな。ふふふ、みんな笑っちゃってる……。

 ヴァカンス映画の旗手エリック・ロメール諸作を踏襲しつつ、さりげなく現代フランス社会の空気感を忍ばせ、感覚値をアップデート。ほのぼのさせ過ぎないその匙加減も絶妙でお見事でした!下手な模倣は認めたくない本家ロメール・ファンの私も嬉しくなっちゃいましたね。

 この作品は、ジャン=ポール・ベルモンドやイザベル・ユペール、ジュリエット・ビノシュ等多くの著名人が輩出している国立高等演劇学校という名門映画制作学校の注文作品で、そこの生徒さんと一緒に作っています。だから俳優たちは映画出演経験がない学生なんですね。撮影にしても天候などのアクシデントも気にせず順撮り。台本はその場その場で書かれたとのことです。とは言っても学生向けワークショップとは一線を画す完成度だからすごい。それは監督が作り込まない“偶然の何か”の良さをちゃんと理解して重視しながら、徹底したロジックを持って撮っているのがよく分かります。なるほど、リアリティと現場のテンション、台詞が一体化して観ている私たちの中にすぽっと入り込んでくるわけだ!とにかく大した展開はないのに確実におもしろい。

 主人公の冴えない3人組、登場人物たちのキャラも重要(特に細田 守のTシャツを着てるオタクのシェリフが最高!)。監督が出演者たちと深く話す時間を設け、そこから着想を得て設定したらしく、ほとんど本人が本人役を演じている感じ。

 フェリックスとシェリフはアフリカ系です。物語の筋には直接な関係はないけど、台詞の節々にその背景が語られたりはしています。黒人の俳優たちはこのような普通の青年役ってあまり回って来ないんだそうです(ドラッグディーラーとか警備員なんかの役が多いみたい)。寛容的で自由なイメージのあるフランスですらそんな状況だとはちょっと意外ですね。でも実際フランスに行って実感するのは、様々なルーツを持つ人たちがたくさん住んでいるということ。またそれがひとつの国としての魅力であるとも感じます。

Photo ©sunny sappa

 さらに人種だけではなく、生い立ちや考えかたもそれぞれが相対関係にあるような登場人物のランダムな配置もよく考えられています。ちょっと短気なフェリックスと穏便なシェリフをはじめ、女性陣でも裕福な家庭で育つアルマと治安の悪い地区出身の若い母親エレナ、お堅い職を目指すアルマのお姉さん(保守派)と偶然知り合った自由なオランダ人(左派)などなど。少し前に見たジャック・オディアールの『パリ13区』(2022)も立場やルーツの違う若者たちが交わって等身大で織りなす物語でしたが、最近は敢えてそういった流れがあるのかな?国立高等演劇学校もこれまでエリート校として家庭の経済状況が高いハードルになっていた所を改善し、今回の出演者達のように多様性に富んだ素晴らしい才能が集まっているようです。イイね!そういうリベラルな動きを反映させたリアルな設定もフランスらしいですよね。

 本作がおもしろかったので、後日関連作として上映されていた過去作『遭難者』『女っ気なし』(2011)も鑑賞(こっちもほぼ満席でした)。基本『みんなのヴァカンス』と内容は同じパターンだけど、これもまた良いのです。主人公のぽっちゃり中年ヴァンサンがMorrissey(よく見えないけどたぶん……)のTシャツを着ていて、それだけで最高!いずれにしてもギヨーム・ブラック監督の眼差しはどこまでも優しい。それはエリック・ロメール同様、市井の人々の日常のあれやこれや、俯瞰で見たら滑稽な我々人間の姿を分け隔てなく、愛を持って描いてくれるんですから。

 思いっきり感情移入しちゃうとか問題提起される作品も大好きだけど、たまには他人のどうでもいいドジ話や色恋沙汰で笑うのも楽しいね!!

■ 2022年8月20日(土)公開
『みんなのヴァカンス』
東京・渋谷 ユーロスペースほか全国順次公開
https://www.minna-vacances.com/

[監督]
ギヨーム・ブラック

[脚本]
ギヨーム・ブラック / カトリーヌ・パイ

[出演]
エリック・ナンチュアング / サリフ・シセ / エドゥアール・シュルピス / アスマ・メサウデンヌ / アナ・ブラゴジェヴィッチ / リュシー・ガロ / マルタン・メニエ / ニコラ・ピエトリ / セシル・フイエ / ジョルダン・レズギ / イリナ・ブラック・ラペルーザ / マリ=アンヌ・ゲラン

撮影: アラン・ギシャウア
録音: エマニュエル・ボナ
助監督: ギレーム・アメラン
製作総指揮: トマ・アキム
映像編集: エロイーズ・ペロケ
音響編集: ヴァンサン・ヴァトゥ
ミキシング: ヴァンサン・ヴェルドゥ
美術・衣装: マリーヌ・ガリアノ
プロダクション: Geko Films
プロデューサー: グレゴワール・ドゥバイイ
共同プロダクション: ARTE France

日本語字幕: 高部義之
配給: エタンチェ
2020年 | フランス | フランス語 | カラー | 100分 | 1.66:1 | 5.1ch | DCP | 原題: À l’abordage
©2020 Geko Films ARTE France

sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。