Review | 植田りょうたろう『はなちゃんと、世界のかたち』


文・撮影 | しずくだうみ
植田りょうたろう『はなちゃんと、世界のかたち』 | 2019, KADOKAWA ビームコミックス

 奔放・好奇心旺盛・自由……。はなちゃんを形容する言葉はそのあたりだろうか。とにかく元気元気元気な小学生のはなちゃんは家族と共に田舎の町に暮らしている。

 確実に今の自分と地続きの、“小学生の頃の自分”のはずなのに、うまく思い出せないぐちゃっとした記憶になっている部分があって、『はなちゃんと、世界のかたち』はそういう記憶たちに似ている。私自身は田舎町に住んでいたことはないし、嵐の夜中に出かけたことがあるわけもなく、そういう天気のときはおとなしくずっと家にいたし、ダムの水に流されたこともない。でも、「小学生の頃ってこんな感じだったな、懐かしいな」と思わせる何かがある。この漫画は基本的にはなちゃんの主観を中心に描かれていて、大人視点の漫画だったらはっきり表現しそうなことでも、曖昧な表現だったり語られない部分があって、そういうところが自分自身の記憶の曖昧さと似ていると感じたのかもしれない。

 とにかく知りたくてたまらなくて自分の足で動き回り、なんでもやってみるはなちゃんは、大人からすると危なっかしすぎて思わず止めたくなってしまう。そんな大人たちの気持ちなどお構いなしにどんどん遂行していく。対照的に描かれているのが友人のうたちゃんだ。うたちゃんははなちゃんのことが好きだが、はなちゃんほど奔放ではないし、子どもながらに自制心があって真面目で優しい性格だ。でもはなちゃんといるのが楽しいのは、冒険したい気持ちがうたちゃんの中にもあるからだろう。はなちゃんと時々冒険するが、うたちゃんははなちゃんがちゃんと帰れるように導いている。足りないところを補い合うようなふたりの絶妙なバランスが、見ていて心地いい。

 “世界”はずっとただそこにあるだけなのだが、自分が変わると見えかたが変わってくる。成長すると見えてくるもの、成長すると見えなくなるものがあると思うが、“世界のかたち”を自分で掴みに行くはなちゃんは、大人になってもその感覚を忘れないままでいられる気がした。

しずくだうみしずくだうみ Umi Shizukuda
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東京のシンガー・ソングライター。

これまでに2枚のアルバムを「なりすコンパクトディスク」(HAYABUSA LANDINGS)、「ミロクレコーズ」よりリリース。自主レーベル「そわそわRECORDS」からは5枚のミニ・アルバムをリリースしている。

鍵盤弾き語りのほか、サポート・メンバーを迎えたバンド・スタイルや、デュオでのライヴ演奏で都内を中心に活動。ライヴ以外にもトラックメイカーによる打ち込み音源など多彩なスタイルで楽曲を発表している。現在はライヴ活動は休止中。

睡眠ポップユニット sommeil sommeil(ソメイユ・ソメーユ)の企画運営でもある。楽曲提供は、劇団癖者、ジエン社、電影と少年CQ、朱宮キキ(VTuber)ほか。