文・写真 | sunny sappa
こんにちは。気が付いたらもう11月。今年もあと2ヶ月ないの、早いっっ……!
さて、日本未公開だったトニー・ガトリフ監督の作品『ジャム DJAM』(2017)がちょっと前に公開されていたので、ご紹介したいと思います。しかしながら、これ、短期間での上映だったので、もしかしたら今すぐには観ることができないかもしれません。名画座などで順次公開されますように……。あわよくば、ついでに、これまでの作品もぜひ……。ガトリフ監督のいちファンとしては、そんな思いも込めて書かせていただきますね。まずは、あらすじざっくり↓
音楽とダンスをこよなく愛するギリシャ人の女性ジャムは、レスボス島でレストランを経営する元水兵の継父、カクールゴスとふたりで住んでいる。ある日、船のエンジン部品を調達するため、カクールゴスの代わりにトルコ・イスタンブールへ出かけることに。そこで彼女はフランスから難民支援のボランティアに来たアヴリルと出会う。
喧嘩あり、出会いあり、涙あり、笑いあり……
そして音楽に満ち溢れた、ふたりの波乱万丈の旅が始まった!
――オフィシャル・サイトより
アルジェリア出身でロマにルーツを持つフランス人のトニー・ガトリフ監督は“音楽をやる映画監督”と自称するように、代表作『ガッジョ・ディーロ』(1997)ではルーマニアのロマの音楽、『ベンゴ』(2000)ではスペイン・アンダルシア地方のフラメンコ、『僕のスウィング』(2002)では(Django Reinhardtで知られる)いわゆる“ジプシー・スウィング”と言われる類のジャズ……などなど、様々な国々の音楽をテーマに映画を作ってきました。そして、本作『ジャム DJAM』では、レベティコというギリシャやトルコの大衆音楽が題材になっています。
とにかく歌や踊りが大好き、強烈でパワフルな女性・ジャムが、路上でレベティコを(ノーパンで笑)情熱的に歌い上げる冒頭から圧倒されちゃいましたが、主演のダフネ・パタキアさんは以前こちらで取り上げたポール・ヴァーホーヴェン監督『ベネデッタ』(2021)でベネデッタのお相手・バルトロメアちゃんを演じていたあの人です!自身のルーツもギリシャで、歌や楽器(バクマラという小さい弦楽器)、ベリーダンスなどを実際に習得。豊かな表現力で披露しています。それにしても、こういう芸風なんだろうか?っていうくらい今回も野生味溢れるぶっ飛び女子役がハマってたよ!!
一方、自由で破天荒なジャムに魅かれ、旅を共にするフランス人のアヴリルは対照的に正義感や道徳心の強い女の子(劇中ではやや存在感薄めだけど……)。『ガッジョ・ディーロ』『僕のスウィング』や『トランシルヴァニア』(2006)などの主人公たちと同じように、始めこそ他所から来た傍観者だけど、土地の風土や人々、文化に魅了され、巻き込まれていくうちに共感し、コミュニティと一体化していきます。
そんな凸凹女子2人のロード・ムービーという大枠のストーリーはあるけれど、なんといってもミュージカルのように全編に亘って繰り広げられるレベティコの歌や演奏が最大の見どころでしょう!また、ギリシャの経済破綻による余波、過去の政治や難民問題などにも触れ、厳しい現実の傍らで大切なものを失わずに生きる人々の姿も印象的にに描いています。家族が経営するレストランを奪われても、「たかが、金だ」と言い放てるジャムの初老の継父カクールゴスの強さよ……。それは、決して誰も奪うことのできない自由な精神と人との絆、そして音楽を生命線として辛い出来事や厳しい時代の波を生き抜いてきた証。“お金以上のものを知っている”っていうことはそれこそすごい財産なんだな……って改めて思いましたね。これは政治的にも経済的にも不安定な今を生きる市井の私たちとっても説得力を持って響くんじゃないかな?
前述したように、トニー・ガトリフは紛れもなく“音楽をやる監督”。音楽をメインに据えて映画を撮っています。ただ、音楽といっても今私たちの周りを取り巻く類のもの(商業的なものや洗練された芸術表現など)とはちょっと違って、そのもっともっと根源にある、暮らしに密着した、土着の、というか、それはすなわち生きるためのものであり、時に喜怒哀楽 = 人生そのものとさえ感じさせられます。こんなにも活き活きと音楽の本質を表現する監督は他にいないかもしれませんね。
今回、『ジャム DJAM』の公開に伴って『ガッジョ・ディーロ』の上映もありましたが、個人的には何度も読み返している我が愛読書ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』(1978)を映画化した『モンド』(1995)、今や幻の作品になってしまったけど、また観たいな~。渋谷のTSUTAYAのレンタルもなくなっちゃったしさ(大泣)、簡単に観ることができない作品がほとんどになってしまったので、いつかどこかでトニー・ガトリフ監督特集やってほしい!お願い、ぜひやって下さい!!
■ 2023年9月29日(金)公開
『ジャム DJAM』
東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
https://tonygatlifilm2023.jp/
[監督・脚本]
トニー・ガトリフ
[出演]
ダフネ・パタキア / シモン・アブカリアン / エレフセリア・コミ / ヤニス・ボスタンツォーグロウ
[音楽]
フィリップ・ウェルシュ
[撮影]
パトリック・ギリンゲッリ
[編集]
モニック・ダルトンヌ
配給: モニック・ダルトンヌ
2017年 | フランス・ギリシャ・トルコ | 97分 | 原題: Djam
©2017 Princes Productions / Pyramide Productions / Auvergne-Rhône Alpes Cinéma / Blonde / Güverte Films / Princes Films
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。