文・写真 | sunny sappa
こんにちは。今月は、公開日からちょっと日が経ってしまいましたが、『ロボット・ドリームズ』というアニメ作品をピックアップしてみました!アニメを取り上げるのは『FLEE フリー』以来の記事なので久しぶり。あらすじざっくり↓
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱――それは友達ロボットだった。セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋……ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。
しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。
――オフィシャル・サイトより
心の寂しさや欲望を埋めるロボットは、スティーヴン・スピルバーグの『A.I.』(2001)とか『エクス・マキナ』(2014, アレックス・ガーランド監督)とか歴代の映画で架空の存在として盛んに登場してきましたが、今や全くもって遠い未来の話ではなくなってしましましたね。技術の進歩は著しいけど、心の寂しさはいつの時代も変わらないのね……。
さて、劇場には老若男女、幅広い客層が。字幕が付くであろう海外の作品なのに小さな子供もけっこういたのに驚きましたが、なるほど、本作セリフがないのです。キャラクターの動きや表情、音楽などで状況や心理を見事に表現。映画の基礎とも言えるシンプルな要素に重点を置いて、年齢や性別を問わず、誰もが鑑賞できる作品になっています。
それにしても、改めて、アニメっていろいろ割り切って捉えられる点は実にいいなと思いました。だって、ドッグはその名の通り犬よ、わんちゃんの見た目ですし、ロボットは絵に描いたような、ひと昔前のステレオ・タイプのやつですよ。それが完全擬人化されて、ありえない設定もすんなりと受け入れられちゃうんだもん。この作品に限らずだけど、リアルも虚構も自在に操作できるのは、アニメーションの大きな特徴、可能性と言えますね。
監督はスペイン出身のパブロ・ベルヘルさん。『白雪姫』をスペインに置き換えてアレンジした2013年の実写映画『ブランカニエベス』(配信などがなく、今回観ることができませんでした……)が比較的知られているみたいで、『ロボット・ドリームズ』はベルヘル監督初のアニメーション作品です。原作はサラ・バロンさんというかたの同名グラフィック・ノベル(漫画と小説の中間みたいなやつ)。こちらを基に背景や登場人物をアレンジしたり、一部原作にないシーンを加えたりして構成されています。
原作ではアメリカのとある街のところを1980年代のニューヨークを舞台にし、実際ベルヘル監督がスペインから単身ニューヨークに移住して友達もできず、孤独を感じていた時期の実体験を投影しているのも大きなポイントになっています。あたりまえではあるけど、当事者性を持って語られるからこそ、ドッグの孤独、寂しさ、楽しさや喜びに我々観客がより深く共鳴できるのです。また、80年代当時のニューヨークの風景、空気感、カルチャー、街を行く人々 / 聞こえてくる音まで、リアルに再現された細かなディテール描写も大きな魅力になっています!
もうひとつ、本作『ロボット・ドリームズ』が音楽映画であるのも間違いないでしょう。セリフがないことで、音楽の効果がより十二分に発揮され、観る人の心を動かす不可欠な要素になっています。アルフォンソ・デ・ヴィラロンガさんによるオリジナル・スコアも素晴らしいのですが、なんと言ってもメインテーマになっているオヤジ・ディスコの定番・EARTH, WIND & FIRE「September」使い……!既存曲のセレクトも絶妙なのでぜひ注目していただきたい。THE FEELIESの「Let's Go」なんかも個人的にグッときましたね。1980年の1st『Crazy Rhythms』(WEEZERなどのヴィジュアル・モチーフでも有名)ではなく、2nd『The Good Earth』(1986)を持ってくるあたりは渋い(劇中TALKING HEADS『Remain in Light』と一緒にあるあのレコードよ)!より温かみのあるこのアルバムが私も大のお気に入りなんでね。後半の重要な登場人物ラスカルおじさんのフェイバリットであるWilliam BellやBooker T.といった南部のご機嫌なソウル / ファンクもよく人柄を表していると思ったし、ところどころで挿入されるラテン・ミュージックや、ミドルスクール・クラシックT La Rock「Breakdown」(1987)なども条件反射的に時代や背景を感じちゃうよね、ニューヨーク行ったことないけど(笑)。
音楽はエモーションに訴えかけてくる力がとてつもなく大きくて、ある意味、“音楽 = 思い出”的に捉える感覚はめちゃわかるな。あのとき聴いたあの音楽が流れ出せば、自動的にあの頃の光景が脳内に溢れ出すあの感じと…。時と共に失われるものは多い、というかそれがほとんどなかもしれないけれど、私たちは各々(心に)プレイリストを持っていて、(心の)ラジカセのボタンを押せば、思い出だけはいつでも再生できるのだ。そして、(心の)プレイリストを増やしながら今を、これからを生きていく……それが人生というもんなんだなぁ……。と、そんなクライマックスシーンの描きかたが素晴らしかった!ここはぜひ鑑賞して実際に体感していただきたいっ!!
私は正直半信半疑で鑑賞したのですが、結果、満席の映画館で号泣するという……、いや、私だけじゃないよ、隣のマダム、隣の若い男性も啜り泣く事態だというのに、ちょっとー、明るくなるの早くないですか?私は恥ずかしさのあまり我先にと席を立ち、一目散に映画館を後にしたのでした……(パンフレットは後日購入)。みなさま、鑑賞の際にはハンカチをお忘れなく!
■ 2024年11月8日(金)公開
『ロボット・ドリームズ』
東京・新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
https://klockworx-v.com/robotdreams/
[監督・脚本]
パブロ・ベルヘル
[原作]
サラ・バロン
[アニメーション監督]
ブノワ・フルーモン
[編集]
フェルナンド・フランコ
[アートディレクター]
ホセ・ルイス・アグレダ
[キャラクターデザイン]
ダニエル・フェルナンデス
[音楽]
アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ
字幕翻訳: 長岡理世
配給: クロックワークス
2023年 | スペイン・フランス | 102分|カラー | アメリカンビスタ | 5.1ch | 原題: ROBOT DREAMS
©2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。