文・撮影 | Takashi Makabe / Zodiak
協力 | 華蛮
「音楽って、本来は社会とか、いろんなことに繋がっているものだよね」という話をたまに友人とする度に、ぼくはSchnitzlerのことを思い出す。
7月のある日、ぼくはデュッセルドルフの中央駅を降りた。湿度はなく、よく晴れていた。けっこう日差しが強かったけど、ライン川に沿って歩いてみたら日本よりずっと涼しくて心地よかった。そこから緑が揺れる並木道を抜け、東側の旧市街に入ると石畳と、赤いレンガ風景が広がった。すぐに灰色の壁に「Conrad Schnitzler Manchmal artet es in Musik aus」の文字が現れて、黒いヘルメットに音響機材を取り付けたデザインの企画展告知を見つけた。
展示はあっさりとした小さな部屋で開かれていたけれども、Schnitzlerの作品の映像や記録がそれほど残っていないということを考えたら、なんだかそこに匿名性がある気がした。ぼくは、そのこともすごくいいな、って思った。
受付をくぐるとガラス・ケースに収められたレコードやカセットテープ、印刷物が目に留まった。 TANGERIN DREAM、KLUSTER。その資料的価値の高さに驚いた。そして「Zodiak Free Arts Lab」。それはぼくがZodiakを名乗り始めたルーツみたいなものだった。
ぼくは抽象的な芸術が好きだった。もちろん今もそうなのだけれど。それは、そこに余白があるからで、余白は解釈を限定しないし、鑑賞者が主役になる自由がある気がする。それに対して製作者が解釈を限定しようとする表現って、なんだかファシズムみたいな圧力感じてしまうんだけどどうなんだろうか?外部へと、他者へと開かれた芸術が、ぼくは好きなんだと改めて思った。
彫刻、絵画、映像とノンジャンルで活躍するSchnitzlerは、“インターメディア・ライフ・アーティスト”と名乗っていた。つまり彼は、音楽のための音楽をしていたのではないっていうことかな?これはどこかで読んだ気がする話だけれど、昔芸術家が芸術だけをしていた時代に、社会の側面から芸術を見る人たちが現れたらしい。そういうことと重なるかもしれない、とぼんやり思ったりしたけど、これは飛躍かな?
音楽を“一手法として使う”彼に、ぼくは芸術の豊かさを感じた気がしたんだと思う。そんなことを考えながら今、展覧会から1年を経て刊行されたこの図録を開いている。
■ Zodiak 6 Hours
"Fixed Action Pattern"
2023年9月3日(日)
大阪 北浜 Compufunk Records
16:00-22:00
1,000円(税込 / 別途ドリンク代)
2023年9月16日(土)
三重 伊勢 2NICHYOUME PARADAISE / NEO ALONE
14:00-18:00
2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
[Exhibition]
Zodiak
[Live Instration]
QUEER NATIONS
[DJ]
HORIZON CLUB
[Screen Printing]
MOLE FACTORY
[Food]
chillin
https://takashimakabe.com/
グラフィック・デザイナー / DJ。
美術展示 / 映画チラシ、音楽作品のカヴァーから書籍まで多岐に亘ってデザインを手がける。アラブ首長国連邦「Bedouin Records」アート・ディレクション、東京 / 大阪のクラブ「Circus」グラフィック・デザイン、Ryo Murakami主宰「Depth Of Decay」、小柳カヲル主宰「Suezan Studio」諸作に携わる。音楽作品ではZomby、Merzbow、SHE LUV ITほか、書籍では『ゲーム音楽ディスクガイド──Diggin’ In The Discs』、『フューチャー・デイズ──クラウトロックとモダン・ドイツの構築』、『クラウトロック大全』などのデザインを担当。
インダストリアル / ベース・ミュージックを主軸に用いながらも不定形なスタイルが異色のDJとして、2018年にドイツ・ベルリン「Berghain」で開催された「Bedouin Records Label Showcase」に出演。