上京してから初めて自分の生まれた街が“修羅の国”と呼称されていることを知った。
たしかに、幼稚園児の時点で絶対に近づいてはいけない場所(後から調べたら〇〇会の事務所付近)が存在したし、同級生の友人の家が民家ではなく完全な“屋敷”だったこともあるし、ご存知の通り成人式はとんでもなかったし……。と、自分の生まれ育った北九州の闇に触れつつ、地元のアングラなストリップ劇場の話にでも繋げようと思ったが、自粛生活の反動か、バンドのレコーディング(アルバム録っていて終わりました!)からの開放感か、なぜか大昔のむず痒怖い話を思い出した。
小学生の頃そこそこな肥満児だった自分は、実に絵に描いたようなぽっちゃりちゃんであった。足はもちろん遅く、ドッジボールがとにかく苦手でぶち当てられるのが常。めちゃめちゃお母さんとおばあちゃんに可愛がられ、好物はチーズとおっとっと。好きな音楽はゆず一筋。書きながら思ったが、改めてまじで正真正銘すぎないか?
そんな完全無欠のぽっちゃりちゃんとして過ごした小学校から僕は、少し離れた中学に入学することになったのだが、この中学は全国ネットの「news zero」で“荒れる地方中学校”的な密着もされたこともある北九州でも有数の治安を誇る学校であった。特に先輩たちが凶暴で、授業中爆竹が鳴るのは日常茶飯事。校庭をバイクで暴走するわ、教室に乱入してくるわ、今考えると毎日お祭り騒ぎのようなまじでやばいところだった。
そんな荒廃した中学校に入学して1週間。ピンとくる友人も出来ず昼休みぼーっとしていると、ガラガラーと勢いよく教室の窓が開いた。また輩が来たのかと思い、なるべくそちらを見ないようにしていると、
「ねえねえ、石リンでしょ?可愛いね!好き!」
は?席の目の前に女の子が立っていた。僕の名前、石井っていうのですが、それをモジって石リンって言ってるんですか。突然何が起きてるんですか。これまで女の子とは完全に完全に無縁のぽっちゃりちゃんの脳みそでは一切の状況を処理しきれなかったが、学年でも間違いなくイケてる側に入るであろう顔面をした、ちょいとギャルっぽい女の子から突然声を掛けられた。言うまでもなく挙動不審でかつ不吉で不安定な対応しか出来なかった僕だが、これは罰ゲームではなかったようで、ギャル子は次の日もその次の日も昼休みになると僕のところに来るようになった。
正直、僕は小5の後半からバスケットを始め、ゆっくりと標準体型に近づいている片鱗があったため、実は心の奥底1mmくらいで新生活に期待を寄せていたのだが、早くもデビューは訪れたっぽかった。ギャル子が教室に来てからの1週間、僕とギャル子は毎日昼休みを共にし、たまに一緒に帰ったりするようになっていた。この夢の1週間については長く、かつきもいので割愛する。
そんな感じで1週間くらい経った頃、突然面識のない男の先輩に声を掛けられ、放課後呼び出された。いわるゆる放課後体育館裏集合な?的なやつである。彼の特徴としては、どちらの屋敷で生活したらそんな面になるんすか?将来成人式間違いなく優勝するでしょこわ。って感じの到底中学生とは思えない仕上がったヤンキー。ヤンキーというか多分組員。そして、
「ギャル子はやめておけ」
そう一言だけ言われた。完全に笑えない本場の雰囲気だった。流石にこれは普通に怖かったのでその放課後を境に僕はギャル子を避けるようになった。僕のデビューは1週間とちょっとで終了した。そして数日後の帰り道、遠目に組員とギャル子が一緒に帰宅しているのを目撃し、有無を言わさず速やかに進行方向を変えた。
気持ちとしては淡い思い出だが、文字にすると修羅み割とあるな。なんだか夏にぴったりの怪談話みたいなことになってしまってすいません。やっぱり素直にストリップ劇場のこと書いておけばよかった。
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