Interview | ayU tokiO


“あきらめなさ”の表明

 来たる5月1日(金)に開催されるイベント「COMPLEX & 月見ル君想フ pre. SYNCASET supported by CASSETTE EXPRESS」は、かなりユニークな試みだ。主宰はミュージシャン、ayU tokiOこと猪爪東風(この原稿では“アユくん”と表記する)と、パートナーであるやなぎさわまちこが運営するレーベル「COMPLEX」とライヴハウスの月見ル君想フ。この日は、ayU tokiO、内村イタル(ゆうらん船)、中野ミホ、ぎがもえかという4人の個性的なミュージシャンのライヴの開催のみならず、新作カセットテープをそれぞれ会場限定で発売する。これは単なる思いつきのお遊びではない。カセットテープでの作品制作に並々ならぬ情熱とこだわりを持つayU tokiOならではの本気の企画であり、フィジカル作品とサブスクリプションが共存する現代の音楽シーンへの、ひとつの問いかけでもある。そのイベント本番を前に、ayU tokiOにこの日に賭ける思いを聞いた。

取材・文 | 松永良平 | 2026年4月

ayU tokiO

――イベント「SYNCASET」のニュースをチェックしていましたよ。アユくんがまたおもしろいことをやろうとしていると思っていました。このアイディアのきっかけは?
 「カセットテープでリリースするのは、自分がシンプルにカセットが好きだから、というのがまずあります。だけど、最近はみんなサブスクで新しい音源をリリースすることが増えてきたし、フィジカルでのリリースがあるとしても音源はサブスクにアップしますよね。それをあえてしない作品があってもいいかなと思ったんです。それともうひとつは、カセットテープのリリースは、かなり手軽でやりやすいと知っていたので、それを伝えたかった」

――その企画は、ayU tokiOの呼びかけで、自身を含む4アーティストが一堂に介してライヴをして、なおかつ、この日のために制作したそれぞれのカセット作品を会場で販売するというアイディアなんですよね。
 「そうです。会場限定でのリリースです。なおかつ、4アーティストすべての新作音源が同時にリリースされるイベントはわりと珍しいかなと思っています。しかも、カセットは小ロットでしか作りません。だから、みんなには“思い切り外に出すにはちょっと恥ずかしい実験”ができるいい機会になる。ちゃんとした制作をするデモテープみたいな感じですかね」

――デモだけど、お客さんには聴かせますよ、という設定なんですよね。デモと作品の中間。そこがおもしろい。
 「まさにそれです!」

ayU tokiO『NEW DAYLIGHT』
ayU tokiO『NEW DAYLIGHT』

――参加されるみなさん(内村イタル、ぎがもえか、中野ミホ)は、それぞれどのように口説いていったんですか?
 「イタルくんはずっと僕と近いところにいる人なので、もともと認識の相違はそんなにないんです。そして彼のソロ活動を今後COMPLEXで手伝っていこうという流れもあるし、今回のイベントのアイディアは説明しやすかった。中野さんに関しては、前作のEP『Bones』(2025年)の録音、ミックスを僕が担当した関係もあって今後の展開の話なども一緒にしていたので、これもちょうどいい機会だと思って誘いました。ぎがさんに関しては、イベントの共催である月見ル君想フのブッキング・マネージャーである中村(亮介)さんに推薦してもらい、声をかけました。彼女はCOMPLEXとの縁はそれほどなかったので、最初から僕の意図を説明しなくちゃいけなかった。初めて聞いたら、このイベントって何をやりたいのかよくわからないじゃないですか(笑)」

――アユくんの活動や人となりを知っていれば、すごくよくわかりますけど(笑)。
 「そうなんですよ!でも、僕も経験を重ねてきて、関係性がそれほど深くない相手に対してでも順々に説明することにだんだん慣れてきているので、丁寧に説明すべき部分は伝えつつ、参加してほしいと口説きました。僕が人を巻き込むうえで大事だと思っているのは、“楽しくミスる”ってことなんです。ちょっと相手にも負担を掛けつつ、そのギリギリの部分をお互いに攻めれたときにクリエイティヴに発展する気がしていて」

――音源の制作にも寄り添うし、カセットという作品にする工程もCOMPLEXが全責任を持つという。
 「そうです。アートワークは、COMPLEXのやなぎさわまちこが全作品を担当します。そもそも今回のカセット販売って制作する本数も多くないし、現実的にはお金にはならないじゃないですか。でも、COMPLEXというレーベルで活動していて思うのは、一所懸命に作っているときに発生するコミュニケーションや人間関係にすごく価値があって、それが追々効いてくるんです」

ayU tokiO

――“長い目で見れば良くなる”と思えるオプションの提示、みたいな?
 「(爆笑)。そうです、そんな感じです」

――例えば、新曲だったり、カセットでやる意味がある新ヴァージョンを出さなきゃいけないというのは、参加する側にとっては決して低くないハードルじゃないですか。
 「そうですね。だから、僕がコンサルみたいな感じで制作には入っていきます(笑)。“こういうことをやったら新しいですよ”みたいなことを言うわけです。イタルくんだったら“ソロ活動もやっていくんだから、まず新曲を出さなくちゃいけないよね”という感じで、取り組むテーマがわかりやすい。中野さんに関しては、ミニ・アルバムを出したところで、次の新作に向けた曲はまだ出すことはできない。だったら前作で僕が関わった曲に別な解釈をした新ヴァージョンにしたり、新作に向けてやってみたい実験をしてみたり。いろいろなテーマで4曲をやってもらいました。ぎがさんに関しては、意外と宅録をやったことがないという話だったので、“それってけっこういいと思いますよ。お家で録ってます、みたいなのもいいんじゃないですか?”と提案しました」

――できあがったみなさんの作品はどう聴きました?
 「すごくよかったですよ。最初に僕が方向性を提案しているから、そっちに行くだろうとある程度は予想してはいるんですけど、実際に一緒に作品を作っていくとちょっとズレるんですよ。でも、ズレつつもみんなやる気がちゃんとあるから、僕の想像を超えていく。作業している間に、“デモ = デモンストレーションとして見せたいものって今はこれなんだ”という解像度が上がっていくんです。イタルくんの『再会』は、最初はライヴでやった新曲を録音してそれをパッケージしようと言っていたんですけど、ライヴで披露したら曲の解像度が彼の中で上がっていったみたいなんです。“ちゃんとカセットMTRで録り直してみたい”と連絡が来て、最初のライヴでのテイクは全部ボツになりました。僕のスタジオでやれるよと言ったんですけど、“家の響きがいい感じなんで、こっちでやってみたい”と。結果的にイタルくんのソロ活動の周辺にいる子たちも参加した音源になった。ちゃんと今のイタルくんが表れた音源になっていて、感動しました。ぎがさんの『ハートの集まり』は、旦那さんの大山りょうくんが今回はミックスをするということで、彼の要素もすごく大きく入っていて。彼が今やろうとしている音楽も反映されたような、ちょっとアンビエントなムードも混ざっていた。依頼したときは、ほっこりとしたキッチン・レコーディングみたいな音を想像していたんですけど、独特な質感のトラックもあっておもしろかったです。中野さんの『LIGHTHOUSE』は4曲とも全部テーマが違うからおもしろかったし。結局、僕のほうが(みんながやることを)かなりシンプルに考えちゃっていたんだな、と実感しましたね」

内村イタル『再会』
内村イタル『再会』

――みんなそれぞれの実験をしている。企画のプロデューサーであるアユくんという最終的なボールの受け手がいることも意識したでしょう。だから、いい具合に自分のタガを外す冒険の場になった。
 「嬉しいですね。自分が狙っていた以上にそうなった」

――自分の作品『NEW DAYLIGHT』については?
 「僕は最近、MPC2000というサンプラーを使った音楽をやっているので、それをメインにしようと思っていたんです。でもやっぱり、どうせだったら実験してみたくなり、ぎがさんの件でやりとりしたりょうくんに、“せっかくだからピアノ弾いてよ”って巻き込んじゃったりして(笑)。他の人たちみんなにコーラスを取ってもらったら、自分の曲なんだけど自分じゃない、みたいな空気感も生まれましたね。あとは弾き語りでライヴするとき、以前RYUTistに書いた“心配性”をやるとウケがいいので、今回それも入れてみました」

――カセットのリリースに積極的な内外のインディ・レーベルはありますけど、制作については、おそらくもっと本人任せですよね?アユくんはきっかけ作りからカセット用のマスタリング、製品としての完成形まで責任を持つわけだから、あまり他にはない例かも。
 「もしかしたら珍しいのかも。大変っちゃ大変なんですよ。でも慣れている作業でもあるから」

――カセットのやりかたを知りすぎているから。カセットで『NEW TELEPORTATION』シリーズ(2012~13年)をリリースしていた頃と変わらないですね。
 「やっていることは変わらないです。ちょっと角度を変えながらずっと同じことを言っているだけ」

中野ミホ『LIGHTHOUSE』
中野ミホ『LIGHTHOUSE』

――でも、他を巻き込んでいくという部分に進化があるのでは?
 「進化しているかなあ(笑)?まあ、昔はそんなに説明していなかったですよね。でも、これはちゃんと伝えておきたいんですけど、そんなにカセットの制作には手がかからないんですよ。レコードなんかより全然やりやすいですから。みんなやったほうがいいです」

――サウンド面でも?
 「そうです。レコードって音圧が飛び抜けて高かったらカッティングで気をつけないと針跳びするとか、CDもプレスするためにはDDP(Disc Description Protocol)ファイルを用意しなくちゃいけないとか、いろいろ手間がかかるところがあるじゃないですか。カセットに関しては、音圧がまとまったA面とB面の一本化した音源データさえあれば、あとはカセット工場の人がいる限りなんとかしてくれます」

――なんとかしてくれる(笑)。
 「今回の製品化をお願いして、イベントのサポートもしていただいたCASSETTE EXPRESSが提携している相模原の工場を実際に見学させてもらったんですよ。テープをプリントする部門ってふたりでやっているんですけど、そのふたりで日本中のあらゆるカセットテープを担当しているんです」

――レコード工場でいうところの、カッティング・エンジニア?
 「そうですね。日本にも海外にもカッティング・エンジニアさんは何人もいるじゃないですか。でも極端な話、今の日本生産のカセットテープに関しては、この相模原の工場のふたりだけみたいな感じだと思うんです。だから、日本中のテープの品質は彼らにかかっている」

ayU tokiO
Photo ©山川哲矢

――演歌からayU tokiOまで(笑)。
 「実際に作業を見学して、話もして、信頼できると思いました。それに、今回はCASSETTE EXPRESSとのご協力もあって、超小ロット生産でやらせてもらえることになった。僕らがこういう企画をやることによって、もっとあそこでいっぱい新作が作られるきっかけになればいい。そういう将来的な目論見が僕らにはあります。自分でラジカセとかでちょっと作ってコピーして手売りするみたいな感覚じゃなくて、ちゃんと工場で作ってもらっているのもポイントです」

――生カセットじゃない、製品カセットだ、という。CD-Rじゃない、CDだよ、みたいなことですよね。
 「そうです。そういう美学や価値観は、僕は昔からあんまり変わらないですね。商品というプロダクトへの憧れが強い。“こういう商品は無くさないほうがいいですよ”というメッセージの発信でもあります」

――つまり、5月1日のイベントは“COMPLEXの新作カセットを4本出します、ライヴします、その場だけで売ります”というクローズドなコンセプトに思えるかもしれないけど、“このやりかたはおもしろいよ”という提示でもある。
 「変なバランスなんですよ。プロダクトとしてカセットは販売するんだけど、ガンガン売れる時代でもない。でも、そこであきらめがちなところをあきらめない。その“あきらめなさ”の表明みたいなところがあります」

――“余ったカセットはどうするんですか?”みたいな心配をするんじゃなく、聖なる1回性にミュージシャンもお客さんもベットする、みたいな。ちまちました試みじゃない。
 「ちまちまとは違います。ちゃんと細かくこだわってやるけど製造販売は小ロット、というだけ」

ぎがもえか『ハートの集まり』
ぎがもえか『ハートの集まり』

――心意気はガウディ建築と一緒(笑)。つくづく良い実験の場ですね。でも、実験優先じゃなく、ちゃんと人に聴かせる意識がある。だから最初のほうに言いましたけど、デモと本番の中間にある音楽になっています。
 「本当そう!その段階のデモ音源って僕だけじゃなく音楽ファンにとって一番おいしいし、聴き応えのある時期の音なんです。これ、絶対に書いてほしい(笑)」

――ビートルズの『Anthology』シリーズもそうですよね。完成形に向かった輪郭がだんだんはっきりしてきているけど、変化の余地も残しているというところに別種の価値がある。
 「いちばん魅力的な時期のデモ、ですよね。“この先良くなりそうだよね”みたいな段階の音源の愛おしさ。今回ライヴやカセットを見聴きできる人は限られるけど、ちゃんとそこを見せるつもりで作っています。ある意味、“自分のデモ好きを煮しめた”みたいな企画なんです(笑)」

ayU tokiO Official Site | http://www.ayutokio.net/

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COMPLEX & 月見ル君想フ pre. SYNCASET supported by CASSETTE EXPRESSCOMPLEX & 月見ル君想フ pre.
SYNCASET
supported by CASSETTE EXPRESS

2026年5月1日(金)
東京 青山 月見ル君想フ

開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,500円 / 当日 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ / 月見ル君想フ

[出演]
ayU tokiO / 内村イタル / 中野ミホ (Band Set) / ぎがもえか

ayU tokiO『NEW DAYLIGHT』■ 2026年5月1日(金)発売
ayU tokiO
『NEW DAYLIGHT』

COMPLEX
Cassette Tape AICP-050 2,000円

[Side A]
01. 怪人 (SYNCASET ver.)
02. amber (SYNCASET ver.)

[Side B]
01. 心配性 (RYUTist cover)
02. 夜 (SYNCASET ver.)

内村イタル『再会』■ 2026年5月1日(金)発売
内村イタル
『再会』

COMPLEX
Cassette Tape AICP-051 2,000円

[Side A]
01. 異界の窓
02. 怒りの手

[Side B]
01. テスト
02. 総理大臣
03. 兎

中野ミホ『LIGHTHOUSE』■ 2026年5月1日(金)発売
中野ミホ
『LIGHTHOUSE』

COMPLEX | Picea Records
Cassette Tape AICP-052 / Picea-003 2,000円

[Side A]
01. So long (SYNCASET ver. feat. ayU tokiO)
02. グリーンピース (弾き語り ver.)

[Side B]
01. よふね (SYNCASET ver. feat. Ibuki Shiina)
02. ハウ・アー・ユー (SYNCASET ver.)

ぎがもえか『ハートの集まり』■ 2026年5月1日(金)発売
ぎがもえか
『ハートの集まり』

COMPLEX | 八百万
Cassette Tape AICP-053 / YRZ-001 2,000円

[Side A]
01. 歩いてく
02. いつまでも明るい光
03. ハートの集まり

[Side B]
01. よろこび (ふたり ver.)
02. 輝く目