Review | DC『AKB Sigils』


文・撮影 | 久保田千史

 かつて、「wigger slam」という用語があった。サブジャンルの名称と言ってもいいかもしれない。軽く検索してみると用語解説のページがいくつかヒットして、「2010年代半ば以降に用いられ始めた」と記載されていたりするのだけれど、これは完全に誤り。筆者は2000年代からこの用語を目撃していたし、当時は詳細なWikipediaの当該ページも存在した(いつそうなったのかは把握できないけれど、完全に削除されており、Internet Archiveにも保存されていない)。簡単に遡れる最古の記録(これもまた消滅しつつある)であろう米『Metal Injection』誌がとち狂ったように(そう記憶している)特集を組んでいたのが2008年なので、少なくとも2000年代後半には成立していたことになる。

 誤解を招きやすい事柄だから正直書きたくはないし、ここで説明するまでもないとも思うけれど……「wigger」とは「white」と「nigger」のポートマントーで、要するにアフリカン・アメリカンの所作を模倣するコーカソイドを揶揄した蔑称である。「wigger」の成立過程には諸説あり、初出の特定は難しいと思われるが、1990sヒップホップ以降に流布したというのが一般的な見解だ。白人によるブルーズやロックンロールの盗用にまで遡る研究も当然行われてはいるけれど、そこを含めると「wigger slam」への認識が複雑になりすぎてしまうので割愛したい。しかし負の文化史に絡めて言及するのであれば、入植の時代にイタリア系、アイルランド系の移民が「white nigger」という呼称で蔑まれていたというレポートがある。しかし、それを踏まえてBIOHAZARDやHOUSE OF PAINを「wigger」の源流とするのは性急すぎるし、差別意識を助長する結果にしかならないだろう。加えて、「wigger」には“ワナビー”のニュアンスが高い割合で含まれていることに留意すべきである。蛇足だが、M.O.D.は「Wigga」(2003)という「wigger」ディス曲をリリースしているものの、折々で物議を醸す人物として知られるBilly Milanoらしいギャグと皮肉のハイブリッドで、MVだけ観れば主にFred Durstを弄りたかっただけのように見える(楽曲自体はHOUSE OF PAIN「Jump Around」へのオマージュを含むラッピンな“ウィガー”ソングとなっている)。構図としてはPhilip Anselmoが『The Burning Red』期のMACHINE HEADをディスっているのとほぼ同じだろう。ほらね、こういう話になっちゃう。以上を記すにあたって筆者に差別的な意図が当然微塵もないことを再度断っておく。

 そんなわけで「wigger slam」とは、黒人文化 / ヒップホップに憧れた白人によるスラミング・デスメタルということになる(スラミングとは?についてはさすがに割愛する)。しかし、スキニー + カットオフ・デニム + ロングヘア等ではなく、オーヴァー・サイズ + バスケットボール・シャツ + スナップバック等でブルータル・デスメタルを演奏する集団を指すのか?と問われれば、そういう側面があるとも言えるし、そうでもないとも言えるだろう。大いにリンクした事象であるハードコア、ことにNYHCの変遷と比較しても、単純に90s以降における様々な事象がミームとしてファッションおよび音楽トレンドへ流入した結果なのでは?という気がする。結局のところ、スラム・パートのグルーヴがオラついていて、回し蹴りにもチルいハンズアップにもハマるデスメタルが「wigger slam」なんだろうな、という2000年代当時に筆者が受けた印象が正しかったのではないだろうか。ラップメタルの黄金期を通過した00年代なら、デスメタルにだってそりゃあるでしょっていう。ブースターとして、OSDM信者が忌み嫌うOBITUARY「Bullituary (Remix)」、俗称“オビラップ”の影響は地味にあるかもしれないよね。ほとんど言及されないけど、筆者は好きだよ。とにかく、この筋のパイオニアとされるINTERNAL BLEEDINGやDYING FETUSはヒップホップからの影響を公言しているし、故にと言うべきなのであろうグルーヴだけど、ヴィジュアルはOBITUARYとそこまで変わらないべ?そういうことだと思う。まとめると、筆者はこの「wigger slam」というラベリングを非常にくだらないものとして認識している。冒頭で「wigger slam」について過去形で記したのはそのためだ。現在でもしぶとく用いられる場面はあるが、低俗なネット・ミームの域を出ない。そういう連中の言い分によれば、00年代の「wigger slam」と現代の「wigger slam」は別物で、現在は直接的にヒップホップの要素を取り入れたデスメタルのことを指すのだという。PEELINGFLESHという無敵のバンドが存在する現代においてわざわざ「wigger」という単語を使用する意味がわからないし、そのPEELINGFLESHすら枠内に収めようとする時点でくだらないを通り越してバカとしか言いようがない。とりあえず始祖とされるSUFFOCATIONにもきちんと謝ってほしい。

 そして「wigger slam」がいよいよバカバカしいのはここからである。2000年代の「wigger slam」界隈が最先端で最高の「wigger slam」として推していたのは、白人でもなんでもない、ここ日本のバンド群がほとんどだったのだ。すなわち、GOREVENT、INFERNAL REVULSION、REST IN GORE、VOMIT REMNANTS、そしてDISCONFORMITYなどである。当時JPDMは、バンド当人たちのハンドリング外で横行した出来事であることは自明だが……完全に「wigger slam」のトップ・ブランドだった。DCがSNSのバイオで標榜するスローガン「REAL JAPANESE HIP-HOP」の元ネタとなった(おそらくはイリーガル・アップロードの)DISCONFORMITY『Penetrated Unseen Suppression』デモ(2004)に対するコメント「REAL HIP HOP」(大野俊也さんによる『SiiiCK』誌のDCインタビューに詳しい)は、当然こういった経緯が連なって書き込まれたものだ。端的に言えばクソコメである。しかしDCは、このクソコメを逆手に取ってと言うべきか、むしろ字義通りに受け取ってと言うべきか、余計な全部をぶっ潰して、そこから新しいJPDMブランドをローンチしたかの如き圧倒的なフレッシュネスを獲得している。KRUELTY・東さんの主宰するレーベル「Dead Sky Recordings」がDCの1st EP『DMC』(2025)をリリースした際は、先んじてHOSTILE EYESのEPをリリースするという流れも含めて、その眼力 / キュレート能力に舌を巻いたものだ。長文となって恐縮の至りではあるが、ここまでが前フリである。

 では一体、DCのフレッシュネスは何に起因しているのか。ヒップホップ要素とデスメタル要素の混交に新しさを見出す向きはあるようだが、先述したINTERNAL BLEEDING、DYING FETUSはもとより、より露骨にヒップホップのネタを扱ったDEHUMANIZEDやENTORTUREMENTといった90~00sイノヴェイターの作品を聴けば(“オビラップ”もそうかな!Ill BillやNecroもね)、古典的なアイディアであることがわかるだろう。現時点においてDCの鍵となっているフォンクを大枠でハーフタイム・ビートの音楽と捉えれば、デスコア黄金期の00年代(デスコアとブルータル・デスメタルの境界線がいかにして薄れていったかについては、馴染みのない読者にとってはどうでもいいことだと思うし、筆者的にもどうでもいいので割愛する。WAKING THE CADAVERを聴けばすべて理解できるであろう)にグライム / ダブステップをはじめとするベース・ミュージックを中心に散々交配が試みられてきた。DISFIGURING THE GODDESSが最新作を「Barbaric Brutality」からリリースしたタイミングでDCがレーベルメイトになったという事実は、デスコア期ハイブリッドの影響下にあることの証左のように感じるが、無論勝手なこじつけである。余談ではあるが、筆者はSUICIDE SILENCE『The Black Crown』(2011, Century Media)のリリース時、Mitch Luckerさんにインタビューする機会を得た。ニューメタルの影響、Big Chocolateとの関係性にまつわる内容を含んだ質問を投げていたのだが、返事を受け取ることがないままLuckerさんは亡くなってしまった。彼が生きていたら、現在の地図はどうなっていたのだろう?と今でも考えてしまう。それはさておき、デスメタルとフォンクの合流については、10年代のトラップメタルというピースが通史として極々自然に嵌るだろう。上記00年代からの移ろいで言えば、グライマーがドリルに流れてゆくという事象も大いに関係がありそうだ。なにより、ラッパーがガビガビロゴのTシャツを着るようになって久しいのだから、カッティングエッジと言うよりもナチュラルと言うほうが相応しいのではなかろうか。個人的には、DC作品にほんのり漂うサイケデリア(意図したものではないのかもしれないが)に、まだクランクゲイズとか呼ばれていた頃のウィッチハウスのムードが感じられて嬉しい。SpaceGhostPurrpが「4AD」ロスターであるという史実も血肉となっているのが(これも意図的でないにせよ)伝わってくる。

 DCが特異なのは、そのバランス感覚だ。トラップやフォンクのビートを取り入れるバンドはいるだろうが、DCほどの分量で前面に押し出し、かつ『AKB Sigils』参加陣を見れば一目瞭然であるように、最前線のプレイヤーを配するバンドは世界的に類を見ないのではなかろうか。デスメタル自認のバンドでありながら、フォンクの現場でも場数を踏んできたというヒストリーも異色すぎる。原理主義的な人々からしたら、はっきり言ってめちゃくちゃである。そして、『AKB Sigils』のリリース・ショウとして6月に行われたイベント「DES ACCEL」に赴いたみなさまであればおわかりだと思うが、実際カオスである。そのめちゃくちゃさこそが「wigger slam」を数光年彼方に吹き飛ばしたエナジーであり、DCによるJPDMの洗練なのであろう。ここでは、めちゃくちゃと洗練は矛盾しない。

 最後に脱線すると、近年STRAIGHT SAVAGE STYLEやDYINGRACE、はたまたMENACE OF ASSASSINZなどからの影響を公言する欧米のハードコア・バンドが増えていて、43 URBANのリイシューなんかは象徴的だと思うが、その現象はJPDMのアーカイヴにも波及しそうな気がしている。「Daze Brutal」みたいな流れをDCが加速させて、そのうちINFERNAL REVULSIONのリイシューとかも出ちゃうんじゃなかろうか……。

 最終的に何が言いたいのかよくわからなくなってしまったが、これだけは言っておきたい。昨年当媒体に登場してくださったohianaさんが主宰するブランド「A.C.C」のイベントに、DCが出るらしい!みんな観に行こう!

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ohiana | Photo ©山口こすも

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パラドックスを抱えながら生きています

Okura MayoOkura Mayo

2026年7月29日(水)
東京 渋谷 CLUB QUATTRO

開場 17:30 / 開演 18:00
Zine付き前売 3,900円 / U22 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
一般先着受付: -2026年7月29日(火)23:59
e+

※ 未就学児童入場不可、小学生以上要チケット / 電子のみ取扱 / お1人様4枚まで
※ U22チケットは公演当日時点で22歳以下のお客様が対象です。
※ID / 身分証は右記いずれかのもの(学生証, 運転免許証, パスポート, マイナンバーカード等)。身分証確認ができない場合、当日チケット差額分を現金でお支払いいただきます。
※ Zineのお渡しは前売購入の方に限定。入場時に先着順でお渡しいたします。数量限定なくなり次第終了。

Act
ANALSKULLFUCK / BBBBBBB (Psychedelic on Z set) / DC / fri珍 / glico / moreru / Yoyou & Efeewma / YUNGSTAお仲間

VJ
kenchan

Exhibition
CCH / mind infection / Tatsuya Shimada

| Zine 目次
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黙って踊ってくんないか? by kenchan
Yoyouから母親への手紙
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DC 'AKB Sigils'■ 2026年2月25日(水)発売
DC
『AKB Sigils』

Barbaric Brutality BB73
CD | https://linkco.re/60V2R6EY

[収録曲]
01. Yanagimori-jinja Shrine skit by FULLMATIC XX
02. LAWLESS AREA feat. Slumza, ATSUKI (DMC Intro 2026 Flip)
03. DIE JOB DEATH CAR feat. JNKMN
04. SOUTHDARK feat. Nasty Carcass, BLKX9FX99Y
05. RADIO KAIKAN skit by EGXRIM
06. N.A.G. the maid feat. SiX FXXT UNDXR, DJ itako
07. dés accel OG feat. SHXVMXNE
08. Dr.MITSUYA feat. DJ itako
09. RAW H.A.R.M. feat. YAHMAN木村, ATSUKI
10. UDXSIDE skit by Yvngshakushi