なんかちょっとnever enoughなんだよ
MASS-HOLEを介して知ったラッパー / ビートメーカーの作品を、私は大きな期待を持って聴いている。送ってくれたI-SET-I(以下 I)の『LONG LIVE GOEMON』を出かける前にCD-Rに焼いて、クラブへ向かう。帰り道に2回目、いや3回目の再生が終わる頃、車の中からMASS-HOLE(以下 M)に2人の話を聞きたいとメールした。
勝田と松本。屈強で愛嬌のあるヒップホップの世界をお届けします。
取材・文 | COTTON DOPE (WDsounds | Riverside Reading Club) | 2026年6月
――はじめまして。よろしくお願いします。
I 「I-SET-Iです。よろしくお願いします」
――メールでは、MASS-HOLEのプロデュースでI-SET-Iというラッパーの存在を知ったと伝えてしまったんですが、そのあと考えたらDJ MASARUからDOWNTOWN SWINGAZ(I-SET-I + 呼煙魔 + 雄火のチーム)を教えてもらっていたと思います。
M 「DOWNTOWN SWINGAZのアルバム(『Echelon』2019, CHOP N FLIP RECORDS)に仙人掌が参加していたよね」
――仙人掌の水戸でのリリース・ライヴは出ていませんでしたっけ?jjjと一緒に行ったときの。
I 「仙人掌さんを呼んだのは自分のイベントです。水戸のBUBBLEっていうハコで」
――そのとき観たんですが、ライヴ直前に着いたのもあってちゃんと話はできなかったから、今日イッセイ君(I-SET-I)と話せるのを楽しみにしていました。
I 「はい、よかったです。今回お話できて」
――作品を聴いていると、Sennheiserっていう言葉がリリックによく出てくると思うんですが、Sennheiserの何を使ってますか?
I 「Sennheiserはe945というライヴ用のダイナミック・マイクを使っています。自分は機材に疎いので的確なことは言えないんですが、音の抜けと高音域のクリアさが良いマイクだと思います。ライヴではどれだけ声が通るかがやはりデカいと思うので」
――気になったんですが、MASS-HOLEはイヤフォン何使ってるんですか?
M 「イヤフォンはSonyの重低音が強いだけの5,000円くらいのやつです」
――イッセイ君の楽曲をMASS-HOLEが教えてくれたっていうのは間違いなくて。MASS-HOLEってツアーでいろんなところに行って、そこで出会ったラッパーを紹介してくれるんですよ。オーセンティックなヒップホップをやってる人たちを。MASS-HOLEとはどこで出会ったんですか?
I 「自分はもともとMASSさんのことを知っていまして。それこそ最初はKINGPINZだと思います。水戸にツアーで来たときに観に行って」
M 「そうだ。あれはMASARUさんのイベントだったもんね。川沿いのクラブじゃなかった?」
I 「そうです。CLUB ARK(CLUB MURZへと改称後、2025年に閉店)っていうハコで」
M 「JBMさんとかと一緒だったんですよね」
I 「そのときに観ていて、自分は知ってたので。スピーカーの向こう側の人としてずっと聴いていた感じの」
――MASS-HOLEはどこで知ったんですか?
M 「KAAMEN君やSHOKIが開催しているつくばのイベントに呼ばれたときに、現場が初めて一緒だったんです。I-SET-Iっていう名前は聞いていたんですけど、やっぱり僕も実は音源を聴いたことがなくて。ライヴを観て、そこでやられて。そのあとCDを交換して、それでちゃんと聴いたら、ああ、やっぱりこっち側だな、みたいな(笑)。そこから勝田に呼んでくれたりとか、そういう感じでしたかね」
I 「最初にMASSさんとお話しできたのは、つくばでしたね」
M 「勝田とつくばっていうのは若干離れているんでしたっけ?」
I 「そうですね。つくばは県南のほうで、勝田はどっちかっていうと茨城県の真ん中のほうなんで」
――勝田は水戸のすぐそばに位置してるんですよね。
I 「そうですね。水戸の本当に隣の町なんで。車で15分くらいです」
――今作を聴いて、オーセンティックなヒップホップを標榜した上で、対抗している対象があるように感じます。その対象っていうのは具体的にありますか?自分たちにとってのヒップホップはこうだっていう主張を強く感じるんです。
I 「たしかに。たぶん、“大多数に良いって言われるもの”ですかね。100人が聴いて100に近い数の人が良いと思うものに対して“果たしてそれって良いものなのか?”って。誰かのインタビューで見たんですけど、“みんなが良いって言うものが良いんであれば、カップラーメンが一番だよね”って。極論、そういうことになっちゃうのかなっていうのもありまして。だから、何かに対して反抗しているというか、アンチテーゼを持っているっていうよりは、プロフィールにも書いたんですけど、ちょっと満たされない部分というか、渇いている部分っていうのがどうしてもあって。“もっとみんなに認知されたい”だったり、“良い音楽を作りたい”だったり。そういう渇き的な部分が、今回のMASSさんとのアルバムにうまく乗せられたかなとは思いますね」
――それはすごく感じます。MASS-HOLEも、出会った頃は長野県って今ほどオーセンティックなヒップホップが強くなくてもう少しメインストリーム寄りなヒップホップのイメージで、そこに対して対抗していたのをすごく思い出しました。それを続けていく中でいろんな人に各地で出会って、I-SET-IとMASS-HOLEの今作がリリースされているということですもんね。
M 「イッセイ君に聞きたかったんですけど、今の茨城のシーンはどういう感じなんです?勝田と全体ではまた違うと思うんですけど。茨城全体的には」
I 「たぶんどこの地方も一緒だとは思うんですけど、ある程度オーセンティックなスタイルはもう若干後ろに回っていて、今は若い子たちのトラップだったり、そういうシーンがやっぱり前に来ている感じはしますね」
M 「絶対名前が出るのはLUNCH TIME SPEAXじゃないですか。そこからあとっていうのは、t-Aceさんとか?そこからの流れで有名な人は出たんですか?」
I 「そうですね。全国的に認知されている人で言えばt-Aceだったり。それこそ、一緒にやっている呼煙魔だったりとか」
M 「降神のなのるなもないさんも茨城でしたっけ?」
I 「そうですね。県央のエリアではなかったと思いますが、茨城出身だと思います。もっと県南とか行けばいろいろなプレイヤーがいますよ」
M 「いろんなところに点在はしているんですね」
I 「そうっすね。でもなんか、ドカンとしたムーヴメントっていうのはやっぱりLUNCH TIME SPEAXだと思います」
――自分も最初に茨城を意識したのはLUNCH TIME SPEAXですね。
I 「そうですよね。当時はやっぱり地方であそこまでドカンといっちゃう人たちってなかなかいなかったのかなっていうイメージがあって、みんなそれを見て憧れていたんで」
――今作でもディグということだったり、あのネタがどうだとか 俺はそういう話がしたいんだ
っていうすごく印象的なラインがあります。ヒップホップのディグとかそういうのは茨城ではどんな感じでなんですか?
I 「茨城はアナログのDJがすごく多くて。今でもそうなんですけど。みんなプレイ・スタイルがそんな感じなので、それに付随してレコード屋さんもあって。必然的にやっぱりレコードを掘るっていうことは昔からあったかもしれませんね。知識の応酬じゃないですけど、“これ知ってる?”みたいな。知らないって言うとちょっと舐められちゃうみたいな文化、あるじゃないですか。そういうのも。そこは続けていきたいなとは思いますね」
――そういう知識の応酬は良い場所には確実にありますよね。febbとかも「これ知ってる?」っていう感じでした(笑)。ラップを聴いていて、裏にある知識というか、ディグしたものの先の表現としてラップがあると感じました。
I 「そうですね。そういうスタイルは、自分がずっと追いかけているものという気はしますね」
――そのスタイルの道標になっている人はいますか?
I 「自分はパーティを勝田のPROOFというハコでやっているんですけど、やばい人はどうしても地元勝田のハコに呼んで観たいっていうか、そういうのがありまして。もちろんMASSさんも呼ばせてもらったり。ヒデオさん(仙人掌)やMONJU、あとは神奈川からFortune Dさんを呼んだりとか。やっぱり82年生まれのかたたちが多いかなっていう気はします」
M 「ちなみにイッセイ君って今いくつなんですか?」
I 「俺は87年の代なんで、39」
M 「じゃあSIN-NO-SKEとか、あそこらへんとかと近いですね」
I 「そうですね。たしかひとつ違いくらい」
――87年も多いですね。5lack、C.O.S.A.、JUMANJIもその世代ですね。
M 「MILES WORDあたりも近いですね」
――それぞれスタイルに違いはあれど、オーセンティックなヒップホップを作っているラッパーが多いですね。それを今に落とし込んでるというのがこの世代の特徴としてはありそうです。
M 「様々なスタイルが今のニューヨークっぽいですよね。現行な感じがする上で、ミドルというか90sの匂いもするし。そう考えるとみんな同じ世代なのすごいですね」
――MASS-HOLEが今回一緒にやりたいと思ったのはどういうところですか?
M 「今の時代に少ないMCだなっていうのが第一印象で。いぶし銀というか。俺はやっぱりCormegaとか好きじゃないですか(笑)? その匂いを感じたんで、ぜひ一緒にやりたいなぁっていう感じで。ビートを送らせてくださいとか。そういうところから話が始まった感じですね」
――Cormega感。たしかに感じますね。「Industry」の、音楽業界にこう突っ込むんだっていうリリックが好きなんですが、それは『LONG LIVE GOEMON』に通じる気がする。Cormegaもフッド感丸出しだもんね。
M 「当時、水戸周辺のDJが出してたミックステープにクイーンズの作品がほぼ入ってましたね(笑)」
I 「本当にテープでしかないような音源なんですけど、先輩方はそういうのをやっていたりしますね」
M 「あとめちゃくちゃ余談なんすけど、去年メルカリとかヤフオクでずっとKenny Dopeのラガのミックステープを探していたんですよ。 それで、メルカリにそのミックステープが出たんですけど、速攻で売り切れちゃって。そのあとI-SET-Iがインスタのストーリーにそのミックステープを上げていたんですよ。ああ~!彼か!みたいな(笑)」
I 「たぶんそうっす(笑)。そのタイミングでしたね(笑)」
M 「絶対そうっすよね(笑)。絶対I-SET-Iだ!みたいなことを思って」
I 「あの頃Kenny Dope集めてました」
M 「同じっす。ああいうちょっとクロスオーヴァーな感じも好き。けっこう得るものが多いなぁみたいな感じで。すいません、脱線しちゃいました」
――今回の作品制作はどのように始まったんですか?
I 「MASSさんから“つくばで一緒にやろうよ”って声をかけていただいて、もう速攻であのビート買います!って言って。それが最初の流れだと思います。それはアルバムに入ってます。“kiribue”っていう曲です」
M 「ちょっとメロウな感じのトラックですよね」
I 「はい。そうです。その曲を作ったときにはまだ全然青写真的なものは何も考えていなかったけど、2、3曲またすぐ買わせてもらったあとで、若干自分の中で見えてきたなって。そんなに前じゃないはずですね。1年前とかくらいかも」
M 「でもその間に、I-SET-Iは2枚もアルバムを出しているもんね。勢いがすごいよ」
I 「DJ Suu...さんとのLP(『Return of the Soul Brother』2024, Sunshine Sound)もMASSさんがやっていたお店(DA POINT 117)で仕入れてくれて」
M 「各アルバムは作業的に並行してやっていたんすか?」
I 「そうですね。Suu...さんとのヴァイナルが一通り終わった段階で、逆にトラックを探していた状態だったんで」
M 「そう考えるとめっちゃリリースのペースやばいですね」
I 「いやいやいや。でもそうっすね、書き続けるように心がけてはいるんですけれども」
――レコーディングはどういう環境でしていますか?
I 「茨城と千葉の県境に我孫子っていう町がありまして、そこに、YU-DAI君っていうプロデューサーがいて、ふたつ下くらいの後輩なんですけど、彼のところで毎回お世話になっていますね。自分名義の作品が出るときには必ず。彼自身がホームスタジオみたいなのを構えていて、そこに1ヶ月か2ヶ月に1回くらい籠って作業をする感じですかね」
M 「1回で何曲か録っちゃうみたいな、そういう感じなんですか?」
I 「けっこうそうですね、ある程度は行くまでに練習して整えていくんで。4曲、5曲とか録っちゃうときもありますかね」
――レコーディングはそれぞれいろんな録りかたがありますし、気になります。MASS-HOLEもまとめて録っているように感じますが。
M 「俺は良くも悪くも宿題みたいな感覚なんすよね。だから余計なこともやらないし、今日はこれって決めたらそれをやって終わりっすね。以前はお店で作業していたんですけど、そこを畳んでから作業部屋がなくなっちゃったんで、現在は実家のほうに全部レコーディングの機材を置いているんですよ。たまに実家に帰ったときに録って、みたいな。井上陽水の“少年時代”の舞台のような場所なんで、モチベーションを上げるのが大変なんですよ(笑)。だから最近はレコーディングみたいな作業はあまりしていないですね」
――そう考えるとイッセイ君の作業環境とリリースのペースはかなり充実していますね。
I 「そうですね。幸か不幸か周りにけっこう恵まれてやれているかなっていうのはありますね」
――呼煙魔君も、ものすごいペースで作っていますよね。
I 「そうですね。彼もすごくハイペースな男なんで」
M 「呼煙魔君はけっこう付き合いが古いんすか?」
I 「呼煙魔はそうですね。それこそ10代後半とかくらいからの付き合いなんで、かれこれ10年以上は一緒にやってますかね。やっぱりLUNCH TIME SPEAXを夢見ていた世代だったんで。DOWNTOWN SWINGAZのアルバムも近日発表する予定です」
M 「LUNCH TIME SPEAXを聴いている最後の世代になるんですかね?」
I 「そうっすね。LUNCH TIME SPEAX名義で3枚アルバムが出たんすけど、『B:COMPOSE』(2001, Golden Harvest Recordings)っていうアルバムが出たくらいにちょうど追っかけていた世代なんで。最後のほうの世代かもしれないですね」
M 「じゃあEl Dorado Recordsで出していた頃よりちょっとあとっていうことですよね」
I 「そうですね。El Doradoの頃は話でしか知らないですね」
――自分はEl Doradoの時がオンタイムでしたね。『Tomatte Tamakka!!!』(1998)で喰らいましたね。今聴いてもEl Doradoはかっこいいですよね。
I 「そうそう」
M 「いけるっすよねー」
――今MASS-HOLEが仲間たちと作っている作品っていうのは、あとで振り返るとEl Doradoとかとも呼応するんじゃないかなと思います。DEV LARGEを介してLUNCH TIME SPEAXやTOHJIN BATTLE ROYALを知ったように、MASS-HOLEを介してI-SET-Iや島根のKOWREEを知ったり。
I 「全国の方々と交流が深いというか。みんなリスペクトをもっての付き合いがMASSさんはすごく多いと思うんで。MASSさんを介して音源チェックっていうのも自分はあったんで」
M 「みんな、好きなものが一緒っていうのはわかるんで、自分はその縁を大事にしているだけですね(笑)」
――トラックメイカーもそうですよね。何回も自分のインタビューで触れているのですが、『ze belle』(2021, WDsounds)から知ったトラックメイカーってすごく多いですからね。そしてMASS-HOLEが紹介してくれるラッパーは聴いたら絶対かっこいいから、チェック推奨ですね。だからMASS-HOLEが教えてくれるラッパーは時間を作ってじっくり聴いています。そんなMASS-HOLEがI-SET-Iというラッパーを紹介するとしたら、どのように紹介しますか?
M 「そうですね……こっちサイドの茨城代表っていう感じっすね」
I 「我々はある程度都会から離れた田舎のほうなんで。地元を背負っているラップができるというか。フッド・ミュージックであるっていう点は、俺はすごく長野の人たち、MASSさん周辺の人たちをすごくお手本にしてきたというか。こういう勝ち上がりかたがあるんだなっていうのをお手本にしてきましたね」
M 「でも、自分がいつも勝田とかに行かせてもらっていると思うんですけど、イッセイ君のDJへの愛、そして先輩DJへのリスペクトをめちゃくちゃ感じるんです。OGって言ったらちょっとあれかもしれないですけど、そういう人たちもちゃんと現場で活きているというか。そういう人たちもやっぱりイッセイ君を推しているみたいな。そうじゃないと、たぶんSuu...さんとのアルバムは出せないと思う」
――Suu...さんは年齢的には上なんですか?
I 「おそらく上ですね」
M 「Suu...さんは水戸周辺でDJをやっていたっていう感じですか?」
I 「そうですね。ただ厳密に言うとちょっと地域が違って、日立っていう北の方にも熱いシーンがあって。それぞれみんなスキル・トレードし合っていたと思います」
M 「地元の話でイッセイ君とのやりかたの違いを言うならば、僕の場合はプレイヤーだった先輩方は途切れちゃっているんで。もちろんリスペクトのある現役のかたもいるんですけど。そういう線引きの違いはあるかもしれないですね。勝田のproofのアットホーム感はいつも温かくて、先輩たちもすごく優しくしてくれるし、飲ませてくれるし、でもめちゃくちゃ選曲はやばいみたいな。そういう人がいたらまたちょっと違ったんだろうなと思います。ちなみに自分がproofに行くと遠方にいるMASARUさんが“遠隔テキーラ”をいう必殺技を繰り出してきます(笑)」
――たしかに、今話していたように茨城のヒップホップ・シーンって繋がりがあるけど、MASS-HOLE周辺の音楽はそれこそ、MASS-HOLEから始まるヒップホップ・シーンだとは思いました。そこからまた別の地域に繋がっていくのかなと思うのですが。I-SET-Iも曲中でKINGPINZのACE COOKを聴く
とラップしています。
I 「KINGPINZに関しては思い入れがすごくあって。MASSさんとのファースト・コンタクトがKINGPINZだったっていうのがありまして。俺の率直な印象だと、めちゃめちゃ怒っているというか、フラストレーションが溜まっているあの感じを今回のMASSさんとのセッションに落とし込みたいな、っていうのは自分の中にあったんで。なんか足りない、なんかちょっとnever enoughなんだよ、みたいなところをどうしても出したいなって。MASSさんの怒りかたってすごくイルな感じに怒るわけじゃなくて、あくまでプロレスというか、エンターテインメントっていうのを俺はちょっと感じていて。同業者としてちょっとニヤッとしちゃうラインとか」
M 「そうだね。当時は怒っていたけど、怒りなんてずっと続かないとも思っていたし、何年後かにその話を肴にして友達と飲めればいいっしょみたいな感覚ではいたかな」
――KINGPINZのアルバムって、MASS-HOLEが何の相談もなく『PAReDE』(2015)を「WDsoundsから出します」ってステージで言って、その意趣返しで自分が松本 SONICのステージで「KINGPINZのアルバムをWDsoundsから出します」って言ったんだよね。まさにプロレスですね。
I 「その裏話すごいおもしろいですね」
――I-SET-Iのこれまでの作品と比べても、今作は全開ですね。
I 「そうですね。イメージがKINGPINZオマージュだったんで、若干そっちに寄っていったのかなっていう感じはあるんですけど」
――そこにジェイムズ・エルロイ、ジェイ・マキナニーの小説であったりが重なってきて、大きなイメージはそこから持ってきつつ、細部はI-SET-I流に書き込んでいるというか。マキナニーの『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』(1984)って若い人の哀愁みたいなのあると思うんですよね。
I 「そうですね。あの、ちょっとやさぐれちゃった若者の葛藤というか」
――エルロイの好きな小説を教えてください。
I 「自分はL.A.4部作から入ったので、中でも『ホワイト・ジャズ』(1992)が好きです。やりたい放題のノワール作品なんですが、内容よりも印象的なのがあの文体ですね。単語を置くだけなのにスリルやスピード感がすごく伝わってくる。『わが母なる暗黒』(1996)という自伝もあるんですが、基本エルロイは胸糞が多いのであまりおすすめできませんね(笑)」
――オーセンティックなラップであると同時に細部に文学的なところも感じました。
M 「イッセイ君は本好きですよね?」
I 「そうっすね。けっこう図書館ばかり行っている感じなんで、読んでますね。本を読んでいるとやっぱりけっこうリリック書けるんで。本を読む時間とリリック。インプットする時間とアウトプットする時間は、毎日なるべく取るようには心がけてますね。自分はリリックを書くのがだいたい朝方で、仕事前のけっこう早い5時とか6時くらいにいつもリリックを書くんで、夜はほぼリリックを書かずに本を読む時間に充てたりとかしていますね」
――MASS-HOLEはそういう生活と制作の時間割みたいなものありますか?
M 「リリックはもう基本的になんか閃いたら携帯にメモするしかしてないんで、インプットも別にあまりしないですね。ああ、でもこの前『SAKAMOTO DAYS』の映画を娘と観に行きましたね」
――おもしろかったです?
M 「全然おもしろくなかった。でも小学生の娘はめっちゃ笑ってたんで。やっぱそういうレベルの笑いなんだろうな、みたいな。そういうのをちょっと客観的に見るのはおもしろかったっすね」
――今日『シラート』(2026, オリベル・ラシェ監督)を観て、ネタバレするんで全然内容は言えないんですけど、音楽の使いかたが体感でやばかったです。マイケルの映画(『Michael / マイケル』2026, アントワーン・フークア監督)も先週観たけどめっちゃ良かったですよ。MASS-HOLEは好きそう。話逸れちゃったんで戻して、リリックなんですけど、細かいニュアンスを煮詰めてるように感じたんですが、いかがですか?
I 「すごくあります。けっこう書き直しています」
M 「テーマ先に決めて書くみたいな感じっすか?」
I 「ああ、でもそうっすね。だいたいビートがないと書かないんですけど、ビートに自分の感情だったり、書きたいことだったりが乗れば、そこから鼻歌が始まって。そこにリリック当ててみたいな感じが多いかもしれないですね。フロウを決めちゃって、みたいな」
M 「基本的にはビートがあって、ビートを聴いてから書き始めるのが前提っていうことっすよね?」
I 「昔はけっこう無音でただ書きたいことを溜めてみたいなのも多かったんですけど、オケと感情がリンクしないとちょっと入っていけないというか」
――そのような書きかたになっていったきっかけはありますか?この曲を作ったときに、とか。そういう瞬間はありましたか?
I 「この曲から変わったっていうよりは、けっこう自然とそうなっていっちゃったかなとは思います。ソロのやつを出したのがもう4年くらい前になるんですけど、毎年コンスタントに出すようになって、そこからスタイルが定着してきて。それまではDOWTOWN SWINGAZをメインにやっていたんですけど、仙人掌さんとの曲を出したちょっとあとからソロでもやるようになって、そこでいろいろスタイルが固まってたかなあと思います」
M 「そういえばSound's Deliも何人か後輩にあたりますよね?」
I 「G YARDは勝田ですね。あいつらは普通にこっちに来たら一緒に遊んだりとか、曲も作っていますね。全然アプローチというか、曲に対するリリックの載せかただったり、フロウだったりもうまるっきり違うんで、すごく勉強になるというか。逆に良い意味でその固定観念的なのを全部ぶっ壊してくれるような。あいつらすごいなあって、ただただ思いますね」
M 「そうだ!それでMETが松本だから親近感が湧いたみたいなところもある」
――自分は仙人掌を介してG-YARDを知ったから、なんかおもしろいですね。
M 「1回DLiPのBLAQLISTで、仙人掌のライヴのときにG YARDがフィーチャリングの曲をやっていて、やっぱり目付けてるなって。超かっこよかったけど、あの曲出る気配がないね(笑)」
――G YARDは世代的には?
I 「28くらいですね」
M 「じゃあ、BOMB WALKERはもう少し下だね。26とかだから。やっぱり刺激になるっすよね」
I 「たしかに。もう、勉強にしかならないですね」
――リリックを書くときに、言葉のパンチラインとかライミングの流れを重視して書いてますか?最初に出る言葉というか。
I 「だいたい自分は16小節で考え始めて、その中で起承転結じゃないですけど、物語に抑揚があってケツでオチがつくようにある程度意識して作ってるんで、パンチラインというよりはどっちかっていうと、ストーリーとしてまとまっていないとなんか気持ち悪いなっていう感じの部分は、すごくありますね。言葉遊びがあまりできないほうなんで、自分はストーリーテリング的なのを大事にしたいというか、そこが好きな部分があるっすね」
M 「僕が思ったのは、やっぱりビートの雰囲気に合わせるがうまいなって。メロウだったら本当にとことんしっとりというか。アゲアゲっぽい感じのはもうバッチリ。ライブでもがっつりいけるなあ、みたいな感じはあったっすね」
――リリース・ライヴはMASS-HOLEがバックDJをやるんですか?
M 「やるっすね」
I 「勝田が7月11日」
M 「松本が8月14日」
I 「めちゃめちゃアガっちゃいますね」
M 「Funkmaster Flexばりに爆発させるから、10秒くらいで次繋いじゃうかも(笑)」
――最後にお2方の最近お気に入りのオーセンティック・ヒップホップ作品を教えてください。
I 「アルバム単位でよく聞いたのはUFO Fev『A Night on the Moon』。昨年アルバムを立て続けに出しまくっていたんですが、年末に出たNefとのこの1枚はUFO Fevのいろんな感情が見られて一番お気に入りです。あとJasonMartin『Repack』。Problem名義の頃から曲やアルバムが出る度にチェックしています。『Coffee & Kush』(2020)の頃のレイドバックしたノリが好きなんですけど、Mike & Keysのオケにいい具合に抜けたJasonMartinのラップが乗って、次のプロジェクトでかなり参考にしたい1枚です。それから、にっちょめ『ROOTS & BALLAD』。MASSさんとBOMB WALKERも参加しているこのアルバムはよく聴きました。とにかくみんなビート・アプローチのスキルが圧倒的に高いです。個人的に好きなアーティストしかいないんですが、Fortune Dの“RISING HOPE”が沁みます」
M 「AZ『Love My Life』、人生賛歌。French Montana & Max B『We Gettin Money』はネタ感にもリスペクトを感じる」
MASS-HOLE Instagram | https://www.instagram.com/masshole19821128/
■ 2026年6月17日(水)発売
I-SET-I
『LONG LIVE GOEMON』
https://linkco.re/g4sV4X0P
[収録曲]
01. INTRO
02. 25th Hour feat. YASBEY
03. Dump
04. BLUE BELLE
05. ブライトライツ・ビッグシティ
06. kiribue
07. Jedi Code feat. MASS-HOLE
08. ZOMBIE WALKIN' feat. BOMB WALKER
09. 夜想曲集
All songs produced by MASS-HOLE
Recorded / Mixed / Mastered by YU-DAI
Artwork by Dr.KOENMA
Director BULL FILM
Director of Photography Seijun Itinose
Camera Asisstant Daiki Saito
Title Design WOLTZ
Production ONEFLAG
■ REWIND
I-SET-I "GOEMON" Release Party
2026年7月11日(土)
茨城 ひたちなか PROOF
22:00-
当日 2,000円(税込)
[出演]
BOMB WALKER / I-SET-I / MASS-HOLE / MEGA-G
AKITO / MAMETARO / KOMOKEN / KYO-HEI / MONICA / TANPEI / TRUMAN a.k.a. JIHAD / Y.S.K.
■ DEVIL'S PIE SUMMER SPECIAL
2026年8月14日(金)
長野 松本 SONIC
22:00-
前売 3,000円(税込 / 別途ドリンク代500円)
[Release Live]
BOMB WALKER
[Guest Live]
I-SET-I / MEGA-G
[Disciples]
3in8ain / ART MC / Asamoan / BLACK EARTHINESS / bmbr / BOMB WALKER / Eftra / fast river / flat / HASHI + JUN + AKI / hxcqle / MAC ASS TIGER / MASS-HOLE / minami / miq / Moon Liez / no-thing / okame / Senna / show / SIN-NO-SKE / TAKISEED / VILLAGE O.G / YUKEMURI POSSE
Support by the source diner / 加賀家 / canola / lilmm / donchiiino books & more / komatsu / hood



