文・写真 | sunny sappa
こんにちは。あっという間に6月になってしまいました。この連載も半年以上経ったのかと思うと感慨深いですね。改めて、読んでくださってありがとうございます。
これまで映画館で観た作品を中心に取り上げてきましたが、今月は旧作です。インドの巨匠サタジット・レイ(সত্যজিৎ রায়)の映画をピックアップしてみました。
まず、サタジット・レイの略歴ざっくり↓
サタジット・レイ(1921年5月2日-1992年4月23日)は、インドの映画監督、脚本家、作曲家、小説家、カリグラファー、イラストレーターである。〔……〕インド映画もしくはベンガル語映画を代表する監督であり、国際的に高く評価され影響を与えた巨匠のひとりと広く見なされている。
――Wikipediaより
以前の記事でアメリカの女性監督ケリー・ライカートについて書かせて頂いたのですが、ライカート監督が影響を受けた作品にサタジット・レイの諸作がありました。黒澤 明に至っては「レイの映画を見た事がないとは、この世で太陽や月を見た事がないに等しい」(出展 アンドルー・ロビンソン『Satyajit Ray: The Inner Eye』1989)とまで言わしめ、『ダージリン急行』(2007)をインドで撮ったウェス・アンダーソンも大いに感銘を受けたそうです。
そういうわけで、『大地のうた』(1955)はずっと観たいと思っていたのですが、最近はいわゆる古典映画的なものは後回しにしてしまう傾向があり……。時間にも心にも余裕のあるときにレンタルし、満を期しての鑑賞となりました。いやー、素晴らしかったですね。こんな映画を作る人がいたのか!と。それはもう、今までスルーしていた自分を責めるくらい……。インドで映画といえば、まず浮かぶのが『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995, K. S. ラヴィクマール監督)でしょ?! 純粋なインド映画じゃないかもだけど、ダニー・ボイルの『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)とか?最近ならNetflixオリジナルの『ホワイト・タイガー』(2021, ラミン・バーラニ監督)もおもしろかった。いずれにしても最近のエンタメ作の印象が強く、古い作品は私も初めてでしたし、きっとあまり知られていませんよね。
サタジット・レイの代表作『大地のうた』(1955)、『大河のうた』(1956)、『大樹のうた』(1959)はオプーという少年の成長と人生を題材にした3部作で、ビブティブション・ボンドパッダエ(বিভূতিভূষণ বন্দ্যোপাধ্যায়)という作家による小説が原作となっているようです。いずれも音楽はラヴィ・シャンカールが担当しています。
オプーは田舎で貧しい僧侶の家に生まれ、『大地のうた』で描かれる父、母、姉と過ごした幼少期を経て、『大河のうた』で都会カルカッタでの大学生活、『大樹のうた』では結婚を経験します。フランソワ・トリュフォーによるアントワーヌ・ドワネルのインド版的メロドラマ?私はなんだか朝ドラだったり、小津安二郎作品の飄々とした雰囲気なんかも彷彿とさせられましたね。アジア圏だからか、不思議な親近感。そしてヴィットリオ・デ・シーカやロベルト・ロッセリーニなど市井の人々の現実を描いたイタリアのネオレアリズモに深く共鳴していることも納得させられます。とは言え、決して欧米の模倣ではなくインドらしい表現に重きを置いていることで唯一無二の名作になっているのだと思います。しかも誇張された感じは全くなくて、なんと言ったら良いのかな?インドの倫理観とか哲学というものを映画の“画”が物語り、ナチュラルに体感させてくれるんです。自然や植物、動物、虫たち、さらには汽車や街の風景でさえなんとまあ、生き生きとしていることでしょう!この世に存在するもの全てが私たち人間と同等に呼吸していて、それらは互いに繋がり合いながら輪のように循環しているんだな……なんて強く感じさせられました。
インドの思想で“梵我一如”という言葉をよく耳にします。これは(すごく箸折って言うと)、万物には共通の法則があり、それを知ることで永遠の至福に達するという考えのようです。映画のタイトルにもなっている大地・大河・大樹がオプーの人生に例えられているように、個人的な事柄というのは社会全体の事象とも重なり、さらに大きなスケールの自然 = 地球、その先の宇宙の原理にも通ずるということでしょうか?逆に(宇宙を理解するのは難しいとしても)自然の摂理や社会問題について考えることが自身を知ることにも繋る、っていうのは個人的にも特に最近感じていたので、妙に納得してしまいます。
それにしても、オプーの人生は常に貧しさや死別(えぇーっていうくらいみんな亡くなっていく……)が常に付き纏っていて、相対的にけっこう大変なんです。でも、その中にある幸せや喜びはすごく輝いているし、ユーモアも交えながら淡々と描かれているので、観ていて辛いというよりは見守っていたくなっちゃう感じ(これもまた朝ドラ感笑)。
今回の3作品はレンタルDVDで鑑賞。どれも故・淀川長治さんの解説から始まります。これがまた良いので必見、必聴であります。「ちょっとネタバレじゃない?!」っていう内容なんだけど、そういう映画じゃないからいいか。さらには「あれ?そんなシーンなかったよー!」っていうことまで言っていて、完全に淀川さんの頭の中でいろいろ変換されちゃってるんですね(笑)。まぁ、そんなこんなも含めて、このかたの表現や言葉の選びかたはやっぱり力強く響くなぁ。
半世紀以上前の作品で、白黒の古く荒い画像なのですが、映し出される世界、その眼差には崇高な美しさと優しさがあり、それだけでずっと観ていたいと思わせられました。こういう映画に出会えたときは本当に嬉しいですね。気になったかたはぜひ観ていただききたいです。それでは、「さよなら、さよなら」。
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。