Review | ポール・シュレイダー『カード・カウンター』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。毎日まじで暑いから、今月はなんか頭が回らず、もう書けないや~、でも、ま、いっか、なんて思ったりもしていたんですけど、「これやっ!」(なぜか関西弁)っていう作品と出会えたことが唯一、己を奮い起こしてくれました。まさか自分がポール・シュレイダーの作品について触れるとは思ってもみなかったけど……。とりあえず、これ、すごくおもしろかった!かつ、自分好みだった!! ということで、A24の『魂のゆくえ』(2017)から5年ぶり、ポール・シュレイダー監督の新作『カード・カウンター』です。会員特権のある映画館だったからという理由でなんとなく観に行ったけど、予想以上でしたね!もうちょっと話題になってもいいんじゃない?と思うくらい。まあ、たしかに地味なんだけど、久しぶりに映画らしい映画を観たというか、なんというか、作品の持つ雰囲気にグッと惹かれるものがありました。あらすじざっくり↓

『タクシードライバー』(76)、『レイジング・ブル』(80)など、これまでに数々の傑作を手掛けてきたポール・シュレイダーが監督・脚本を手掛け、盟友マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めた最新作が『カード・カウンター』だ。元上等兵のウィリアム・テルは刑務所で服役した後、ギャンブラーとして出直そうとしている。しかし、彼は今も過去に犯した行為に心が苛まれている。孤立と絶望を断ち切り、愛と人とのつながりを手にした後でさえも。唯一の解決策は自らの過去に向き合うことだった…。
――オフィシャル・サイトより

 オスカー・アイザックが演じる主人公のウィリアム・テル(偽名)は、服役後にギャンブラーとして生計を立てるのですが、腕はたしかでも生活のためにリスクを踏まえてやっているだけだから、全然楽しいわけでもなさそうです。私生活も病的なまでに神経質で、それはモーテルでの異様な行動や、服装や髪型など風貌でも的確に表されていて、なんとなく陰気で機械的に生きている感じ。だから最初はあまり共感できるキャラクターじゃないんですけど、だんだんわかってくるんですね、事の経緯が。そして、ある2人の人物との出会いで彼も血の通った人間に戻ったのかと思えたが、しかしっ……!っていう感じで話が進みます。

 あらすじにもある服役の原因となった「過去に犯した行為」 = 罪というのはネタバレしないほうがいいと思うのですが、イラク戦争下で実際にあった事件です。恥ずかしながら、詳細を知らなかった自分にはかなりの衝撃であり、怒り、恐ろしさに震えました。文面だけでも吐き気のするような内容を映像にして見せられるのは相当ヘヴィではありますが、いずれにせよ、今私たちがこの世界で生きている限り知らなければいけない事実だとは思います。加害者となった主人公の壮絶な罪への意識、トラウマ、孤独や病的な心理がひしひしと伝わってくる。自分もいつかそんな状況に陥るかもしれない……。そう、彼もきっと本来ごく普通の人だったんです。戦争、権力関係や同調圧力、恐怖やストレスは人を狂わせ、その後の人生も変えちゃうんだな、と思うと本当に怖い。

 そんな社会問題にも斬り込んだクライム・サスペンスの体を成しながら、『カード・カウンター』は、重厚な人間ドラマであり、純粋なラブ・ストーリーでもあります。自分を許すことができず、苦しみ続けた主人公が取る行動、そして最後に行き着く先とは?! ぜひ本編を観ていただきたいです!

Photo ©sunny sappa

 ちなみに、イーサン・ホークが小さな教会の牧師を演じた前作『魂のゆくえ』もほとんど同じテーマを扱っていました(言ってみたら『タクシー・ドライバー』など過去のシュレイダー作品も然りですが……)。話の展開も基本同じ構成じゃないですかね?と思ったら、一応“罰と贖罪”3部作らしいです。最後の一作は日本公開は未定で、庭師の話とのこと。

 “贖罪”という言葉自体キリスト教用語でもあり、人類の罪を償う為にイエス・キリストが十字架に架けられたように、主人公達も罪を背負って散々苦しんだ挙句、償いのために自らを(肉体的に)罰しようとしたり、過激な行動を取ります。こちらから見ると狂気の沙汰なのですが、その先には必ず、ほんの微かにでも救いや解放があって、それは人との繋がり = 愛によるものだともシュレーダーは常に説いているんですね。それはカルヴァン主義という極めて厳格な環境で育った敬虔なキリスト教徒であるシュレーダーの信条とも言えるでしょう。

 そして、ストーリー、脚本のおもしろさもありながら、感覚的な部分の観せ方も本作の大きな魅力ではないでしょうか?! 撮影、音楽、美術、編集、キャスティングとか、各所のチョイスが見事で、映画全体として独特のムードを作っています。だから、ブラック・ジャックやポーカーのルールを知らなくても、派手な展開がなくても、終始緊張感が途切れず、画面に釘付けになっていました!撮影はここ最近ポール・シュレーダーと組んでいるアレクサンダー・ディナンさん。徹底した美意識をビシバシ感じます。前作『魂のゆくえ』でも主人公の生き方を象徴するかのような左右対称の整然としたトーンから、とある箇所で挿入される突飛な映像に驚かされましたが、『カード・カウンター』でも、同じ意図で不思議な映像表現をされています!過去のトラウマ回想シーンも怖かった……。

 あとはね、モーテルの異様な光景や主人公の背中に入った刺青のデザインさえ、なぜかかっこいいとか。個人的には、もう、冒頭のタイトルとか文字が出る部分から好きでした(そこけっこう大事)。そして音楽が最高だったから、こりゃ間違いないってなりましたね。こちらはBLACK REBEL MOTORCYCLE CLUB(ポスト・ガレージ系のバンドでめちゃかっこ良かった!)のロバート・レヴォン・ビーンによるオリジナル・スコアで、同じくミュージシャンであるお父さんがポール・シュレイダーと繋がっていた縁で担当したようです。

■ 2023年6月16日(金)公開
『カード・カウンター』
東京・ヒューマントラストシネマ渋谷, シネマート新宿ほかにて全国順次公開
https://transformer.co.jp/m/cardcounter/

[監督・脚本]
ポール・シュレイダー

[製作総指揮]
マーティン・スコセッシ
ほか

[出演]
オスカー・アイザック / ティファニー・ハディッシュ / タイ・シェリダン、ウィレム・デフォー
ほか

⽇本語字幕: 岩辺いずみ
字幕監修: ⽊原直哉
配給: トランスフォーマー
2021年 | アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン | 英語 | 112分 | R15 | カラー | ビスタ | 5.1ch | 原題: The Card Counter
©2021 Lucky Number, Inc. All Rights Reserved.

sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
Instagram

東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。