第三部 | ビッグビジネス会談 ~Voidにて~: マリヲ + bonnounomukuro + DickHunter + 伊藤大悟 (Void)
取材・文・撮影 | oboco | 2026年2月
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――今回Voidに来たのは、『REMIXLIVEEDIT』に収録されている2人(マリヲ | 以下 M + bonnounomukuro | 以下 B)のセッションを企画したのが会場のオーナーでもある大悟さんということで、その経緯含めてお話を聞かせてもらおうかと。
V 「そうですね。あのライヴは毎年の年末にやっていたVoid企画の“DEEP RELAX”というイベントで、2人には僕から声を掛けてやってもらいました。あれは何年前のやったかな」
B 「2021年やから、もう5年前やね」
V 「そんな前か。けっこう出るまで時間かかってるなー思ってたけど」
――そもそもVoidは始まってどれくらい経ちますか。
V 「2019年からなので、もう7年目ですね。もともとVoidを始める前は建築関係の仕事をしていたんですが、いろいろと転がって。現在はこのビルで、ギャラリーやイベント・スペースとしてVoidを運営しています」
――ちなみにVoidで今は坂口恭平さんの絵画作品展(1/17-2/28「体は見えてる」)をやっていますね(取材時)。
V 「はい。坂口さんは、まず建築家として影響を受けていて。僕はそもそも大学では映画を学んでいたのですが、その後は全然関係のない建築の仕事をすることになったんです。もともと本を読むこと自体が好きで、それで読んだ坂口さんの著作に出てきた“建てない建築”という考えかたがいいなと思いました」
――大悟さんはわりと坂口さんを活動の初期からフォローしていたんですね。坂口さんももともとは建築家や文筆家として知られて、今はこうして絵画や音楽もやっているから、そういう興味や環境でどんどん流れていくようなところにも、大悟さんは影響を受けているのかもしれませんね。
V 「自分が気になる人って、だいたいひとつのことだけをひたすらやるんじゃない人。それは定期的にVoidで展示やライヴをやってくれている工藤冬里さん(MAHER SHALAL HASH BAZ)もそうだし、マリヲくんもそうですね。自分やマリヲくんの世代はわりとDJだったらDJを、ってひとつのことに集中してやる人が多いように思うんですが」
――みなさん、生きかたそれ自体が自身の表現と深く繋がっている人たちですね。大悟さんはマリヲさんと最初どういう風に知り合ったか、憶えていますか。音楽からですかね。
V 「それはけっこう鮮明に憶えていて。マリヲくんの今回の本(『タクシーの黒は夜の黒』)の装丁もやっているFujimura Familyが僕の大学の同級生で、もともとFujimura Familyの味果丹が市内関係でマリヲくんと一緒にやってるから知っていて。でも、直接話したんはもっとあと。大阪のYAMASTOREに行ったときに偶然遭遇した」
M 「そうなんや。全然覚えてへん」
V 「そのときは最初の子が産まれてすぐで、買いたてのベビーカーを引いて行って。お店に入ったらマリヲくんが居たから話しかけたら、えらい陽気な感じで」
M 「あぁ、なんか嫌な流れ……」
V 「なんかワーワー言ってすごいテンポと勢いで、大事なベビーカーにマリヲくんがステッカーをバーンッて貼り付けて。笑顔で」
M 「睡眠薬!眠剤の効用です!それは」
――出会って5秒で即マーキング……。
V 「いや、まさにそのステッカーが日本のグラフィティライターの人とかがネームタグによく使う運送屋の送り状になんか描いたやつで。糊強いし全然剝がれなくて」
――ふつうにブチ切れ案件ですね。今こうして2人が同じ場で話していることが信じられない。
V 「まぁ全然気にしてないし大丈夫ですけど。ともかく、インパクトが強かった」
M 「自分が思い出せる大悟くんとの記憶で印象深いのは、Voidでみんな飛び入りDJするイベントがあって、それで僕もDJしたんですけど、その1曲目で大悟くんが開け放っていた窓を全部閉めて回ったんですね。うるさかったんですかね。それをすごく憶えている」
V 「いやいや。たまたまのタイミングでしょう。全然覚えてへんけど」
――そういう感じでいびつながらも交流していって、ボンノーさんとの共演を提案すると。
V 「そうですね。その2021年の『DEEP RELAX』のちょっと前に、ボンノーさんはvoidで石橋(英子)さんと食品(まつり a.k.a foodman)さんでやった3マン企画に出てもらって、そのライヴを観ているときに、ボンノーさんの演奏にラップが入ってきたらいいなーと思って。その前後にマリヲくんからもらった音源がノイジーなトラックの上にラップを乗っけていて、あーこの感じやって思って、2人に提案しました」
B 「こっちもちょうどマリヲくんと定期的にやりとりしていたときで、やってみようってなった」
――その本番はどれくらいやっていたんですか。尺は。
B 「1時間かな。最初は聴いた人が気付かん程度に一部をループさせたりエフェクトかけたりってやっていたけど、最終的にはどんどん短くなっていった」
M 「素材の演奏をめっちゃ聴きましたよね。正直、自分がMCしているところとか聴くん嫌やったんですけど、何回も聴いていたら馴染んできて。これ言った後にこの音来るな、って流れのひとつみたいな感じに捉えられるようになった」
――もはや自分自身が記号化して。
B 「ド頭に入っているお客さんの声とかもめっちゃ聴いたな」
――ボンノーさんは、エディット作業をどういう基準で進めていったんですか。
B 「基準ていうのかはよくわからんけど、ライヴの再現性に重きを置くんじゃなく、録音物としてしっかり作り込んでいった。そのときのライヴの流れを縮めたりするだけじゃなくて、いろんな別の箇所から使えるところを持ってきて組み合わせて作ったり。それはFrank Zappaのライヴ音源の作りかたとかに近くて。たまたま作業中にネットでそういう記事を読んでんけど、あの人はライヴ盤っていっても、そのときの即興演奏を改めて譜面に起こしてスタジオで弾き直したやつとかも平気で重ねたりして作るから」
――さっき言っていたみたいに、CD1枚にリミックスと一緒に収めるための経済的事情を考慮した末のエディットでもあるし、作品としてより高度に成立させる音響技術的なエディットでもあるんですね。
B 「まあ、Zappaさんがやったはるなら、俺らもええやろと」
M 「つまり、このCDはNIPPSとMINUTEMENとZappaに影響を受けた作品なんです」
――あと、じゃがたらと。なんか共通点が見出しづらいな……。でも、わりと通して聴きやすいとは思います。聴きやすいというか、通して聴く意義みたいなんがあるというか。
M 「それはマスタリングのおかげもありますね。あ、マスタリングは『Rastakraut Pasta』を参考にやってもらいました」
――Dieter MoebiusとConny Plankの。それはなんで。
M 「きっかけは、あれですね、Rashad Becker来日のフライヤーを見たとき、ちょうどマスタリングとかのことを考えていて、エンジニアをやっている人の音楽を掘り下げてConny Plankに行きついた。それで『Rastakraut Pasta』を聴いたら、これや!ってなって」
――う~ん。白昼夢っぽさとかは感じられたかも。
M 「マスタリングしてくれたDr.Flex Nakanoくんはヒップホップとかベース・ミュージックをメインにしていて」
――それはあの漂白洗浄されたラスタ感とはまた少し違う畑のように思えますね。
M 「次に出す作品(Hiroki Nakano『Human, Last Order』)はグリッチポップだと聞いているけど、僕からその『Rastakraut Pasta』みたいな感じっていう提案を受けてからConny Plankについてめっちゃ調べてくれて。ドキュメンタリーとか観て、使っていた機材を特定したり」
V 「そんなとこまで調べられるんや」

――そういう風に中身はいろいろ手が込んでいるけど、やはりこのCDはパッケージングを含めて物体として謎が多いですね。あとさっきも言っていたけど、第三部だけ盤に収録させずにQRコードからダウンロードさせて、聴く人にひと手間かけさせたいっていうのも。それもいまいち理由がわからなかったんですが、音源が揃ってできあがったうえで、マリヲさんの感覚的なことなんですかね。
M 「それは話していて思い出したんですけど、最終的にそのQRコードから第三部を落とすようにしたのは、CDの入稿に間に合わなかった曲があったからっていうのもありますね」
――そういう根本的な原因が。第三部に入っていたリミックスは……ディックさん?あんた、黙ってんとなんや言うたらええんとちゃうの。
DickHunter 「いや、あれは急にマリヲくんから連絡があって。“締切2日前ですよ”って。僕はリミックスの依頼を受けた覚えはないのに」
M 「えっ!そういうことやったん」
DickHunter 「もともとは、このCDのリリース・パーティ“ノバ”でDJするっていうので誘われていたけど、いつの間にかリミックスのほうも参加することになってた。曲とか作ったことないのに」
――無茶超えて無理な話の振りかたですね。でもできたんですね。
M 「ダブプレートを切ってそれを使って作るっていうことやってんけど、いざやってみたらその盤の音がショボすぎて」
DickHunter 「『大人の科学』でカッティングマシーンの簡易版みたいなやつがあって。それを中古で買って」
M 「でも、もともと付いていた電源アダプターがなくて。それで僕が自宅にあったアダプターをディック氏に支給しました」
――ある意味プロデューサー的な動きですね。
M 「しかし、それは電圧が全然合ってなかったっぽくて。たぶんそれが原因でちゃんとカッティングできなかった」
DickHunter 「だから作った盤はほんまに音ガサガサで。まあでも、特に問題を感じなかったので、そのままダブプレートのガサガサ音源を基に今回のリミックスを作りました」
――いつものディックさんのDJプレイにも通ずる、大胆でおおらかな考えかたで今回のリミックスも作られたんですね。
B 「あれは結局iPhoneのGarageBandだけで作ったんやろ」
DickHunter 「そうですね。でもダブプレートの音をiPhoneに取り込むのがエア録音しか無理で」
B 「フィールドレコーディングやね」
M 「もともとガサガサなんがよりひどくなった。戦前のSP盤みたいな」
――そうやって携帯で作った音楽を、またQRコードから携帯でダウンロードして聴くっていう。そうして、結果的には聴くのにひと手間かけるっていうことの目的は達成できたわけですね。
M 「いろいろありましたが、皆さんのおかげでこうして発売できました」
――改めて、発売してのマリヲさんご自身の感想はありますか。今日1日話を訊いて、かなり時間と手間がかかっているのはわかりましたが。
M 「うーん、感想か。そういえば、このインタビュー記事の企画書をobocoさんから送ってもらって、その中に“そもそもリミックス集というものは、元の音源をまとめた物をリリースしてから作られるはず”ってあって、そうなん?って思っていたけど、リリパにも出てくれた豊田(道倫)さんも最近トリビュート盤が出て、それもちゃんとオリジナル音源を、それに準じた内容で盤にまとめてリリースしていて。やっぱそうなんや!って」
――必ずしもそうじゃないとは思いますが、マリヲさんの場合はけっこうキャリアが長いのにソロ名義としてのアルバムってないわけですし。
M 「自分の中では道理が通っていたんですが……」
――とにかく、なにかしらの必然性から作られたものなんでしょうね。ていうかそんだけギリギリまでCDを作っていて、リリパに間に合ったのもすごいですね。会場は早い段階で押さえないとダメなわけだし。
M 「その予定を先に決められたから、CDが出来上がったとも言えますね」

――これまた「卵が先か、鶏が先か」な話。この盤が先か、あの晩が先か……。
V 「いやでも、改めてマリヲくんはそういうオーガナイズとか事務的な作業も含めて、自分でやっていてすごい。CDも本も同時に出してるし。イベントも企画していて。あれは毎年やってるの?」
M 「“ノバ”は去年が初回で、今後は2年に1回ぐらいかな。大変なので……」
V 「本もすごくおもしろかった。文章やけどクラブで話してる感じがあった。あれは全部同時期の文章なん?」
M 「そうですね。ほぼ同じくらいやけど、それぞれ話し手の人称は意識的に書き分けていて。最初のは“彼”、次のは“わたし”、最後のちょっと長いやつは“ぼく”。っていうのは、わりと自分の精神状態が反映されていたりもするんですけど。特に最後の話を書いてるときはどん底で、ああいうのしか出てこなかった」
――絞り出すような。でも、あれがないと本1冊としての黒さが薄くなるように思います。大阪の真夜中、平日に終電をなくしたときに見る殺伐とした光景。
M 「タクシーの出番じゃないですか」
――どん底からのビジネスチャンス!そういえば、こないだのリリパ「ノバ」はけっこうお客さんも来ていたし、儲かったんじゃないですか。
M 「はい。皆さんのおかげで赤字は◯万円で済みました」
一同 「赤字やったん!」
M 「いやーちょっと自分で設定した入場料が安すぎましたね……。いろいろ考えはあったのですが。まあ、でも去年やったときの“ノバ”は◯◯万円赤字なので、それ基準だとかなり儲かったとも言えますね」
――たしかに。◯◯万円も収益アップしていますね!このペースだと次回は〇万円の黒字になるのでは。
M 「次は2年後の予定なので、2028年の年始ですね。なるほど……」
――期待しています。以上、ラップとパーティと自伝出版でサクセスする男の話でした。今日はたくさん喋って喉が渇いたので、今すぐ何か飲みたいです。あと、お腹も減りました。
V 「Voidの近くにうまい焼肉屋があるので行きましょう。もう予約しています」
B 「上海やね。野性味があるいいお店」
数日後、大阪の九条で映画を観た帰りに腹が減ったから、店主の独り言が激しいことで有名な駅前の立喰いうどん屋に寄っていこうかと歩いていたら、道路の方から声をかけられた。えっ店長!?……いや、タクシー運転手の細谷(aka マリヲ)だった。カッターシャツを着てウエストポーチをしていた。驚いて言葉が一瞬出なかったが、まあそういうことはあるだろうと納得した。停まっているタクシーの側で話していたら、彼が「今日はもう疲れたので、早締めして帰ろう思てます」と言った。すると、脇から急に喪服を着た老婆が現れ、「兄ちゃん、今乗れますか」。早締宣言は即取り消しとなり、さっと運転席に戻る細谷を横目に、中央線九条駅の階段をふらふらと上った。その数週間後、九条の商店街には新しく「バーガーキング」ができて、立喰いうどん屋の「大和庵」は突然閉店した。1980年の開店から46年目のことだったという。昭和から令和にかけて、1,451,606,400秒の間にいったい何杯のうどんやそばやラーメンがそこで啜られたりひっくり返ったりしたのだろうか。
bonnounomukuro Instagram | https://www.instagram.com/bonnounomukuro/
Void Instagram | https://www.instagram.com/void_kasai/
■ Void at ART BUSAN
https://www.artbusan.com/
2026年5月22日(金)-24日(日)
韓国 釜山 BEXCO 1st Exhibition Hall
Booth Number: B-18
22日 11:00-19:00
23日 11:00-19:00
24日 11:00-18:00
韓国・釜山のBEXCOにて「ART BUSAN 2026」へ出展致します。海外での出展は初めてで、Voidはアーティスト2名(安野谷昌穂, COOL)の作品を展示致します。
韓国でお会いできるのを楽しみにしています!안녕하세요. 아트부산 2026에 참가하는 Void (Hyogo, Japan) 입니다.이번 아트부산 2026에서는 Masaho Anotani and COOL 의 작품을 선보입니다.여러분을 만날 수 있기를 기대합니다.
We will be exhibiting at Art Busan 2026 with a two-person show by Masaho Anotani and COOL.
■ 2026年1月17日(土)発売
マリヲ
『REMIXLIVEEDIT』
CD 税込1,800円
[収録曲]
01. うちがない / KK manga Remix
02. aji-ll (Heartfull Dub) / SHINDO Remix feat. ind_fris
03. でもいう / 中田粥 Remix (Live)
04. Park / Bonnounomukuro Remix
05. Pain Kille r (Heartfull Dub) / SHINDO Remix
06. COIN (Pain Killer) / AFTER Remix
07. Beautiful (SJT ebisu apartment dub) / SJ Tequilla
08. 第二部
09. うちがない (Live) / Bonnounomukuro LIVEEDIT
10. シャイン (Live) / Bonnounomukuro LIVEEDIT
11. 仏の花 (Live) / Bonnounomukuro LIVEEDIT
12. Park (Live) / Bonnounomukuro LIVEEDIT
13. ボーナストラック
14. Dad’s Shoe (2022ver.) / Prod. AIWABEATZ
15.第三部
16.シガニーウィーバーの気持ち/ Dick Hunter Remix
17.UFO (SJT klub dub mix) / SJ Tequilla
18.Dad's Shoe (Alternate ver.) / Prod. AIWABEATZ
■ 2026年1月17日(土)発売
マリヲ 著
『タクシーの黒は夜の黒』
B6 | 132頁 | 税込1,300円
[目次]
タクシーの黒は夜の黒
主人公たちの
彼女が残した手紙には皆元気でやっていると書いてあった
発行: マリヲ
装丁: Fujimura Family





