Column | Screen Surfing January 2021『あの頃ペニー・レインと』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画に因んだ音楽プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載する“Screen Surfing”。第7回目となる今回は『あの頃ペニー・レインと』をテーマに、作品の紹介、同作をイメージしたメンバー選曲による楽曲プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピを掲載しています。

 今回ご紹介する音楽映画の金字塔『あの頃ペニー・レインと』は、ロック & ロール好きの少年がロック専門の音楽ライターとして、バンド・メンバーやグルーピーとともに様々な経験を積んでいくというストーリーです。劇中では60年代、70年代の古き良きロック & ロールが流れ、そのタイムレスな魅力を物語を通して改めて教えれてくれます。本作をイメージして作られた特製シネマカクテルと、作品に因んだプレイリストと一緒にぜひお楽しみください。

今月の作品『あの頃ペニー・レインと』

文 | Shin (DJ)

 Neil Young、CREAM、Iggy Pop、THE WHO、Bob Dylan、THE BEATLES、Jimi Hendrix、David Bowie……。1960、70年代に登場したミュージシャンたちは今でも僕らの心を掴んで離さない。ロック音楽が好きであれば誰もが一度はこの時代のミュージシャンたちと出逢うことになるだろう。楽器の演奏、パフォーマンス、ファッション、インタビューでのアティチュード、全てがクール。クールとは彼らのためにある言葉なんじゃないかとさえ思ったものだ。彼らが鳴らす音楽に身を委ねているだけでこちらまでクールになれる、そんな気さえした。今回ご紹介する映画はロック & ロール全盛期の70年代を舞台に、音楽に魅了された男の子が旅を通じて人生の酸いも甘いも経験していく青春音楽映画『あの頃ペニーレインと』です。

 主人公のウィリアムは15歳。母親の行き過ぎた教育観もあり、彼は小学校を飛級する程の秀才でありながら周りの同級生からは浮いており、姉のアニタから譲り受けたレコードがきっかけでロックの世界にのめり込んでいた。そして持ち前の物書きとしての才能を活かし、ロック・ライターのレスター・バングスに売り込んでバンドの取材の仕事を得る。売り出し中のバンド“スティルウォーター”に取材を試みる彼はバンド・メンバーやマネージャー、グルーピー達とツアーに同行する。

 よく知られている話だが、この映画は監督のキャメロン・クロウの実体験を元にした映画だ。彼は映画と同じく“幼稚園は無駄が多いから飛級させた”というアグレッシヴな教育観の母親の元で育ちながら、反抗的な姉の影響でロック音楽にのめり込んだ。そしてやはり実際に若くしてカルチャー雑誌の『Rolling Stone』誌にライターとして寄稿。David BowieやJoni Mitchellにインタビューし、THE WHOやLED ZEPPELINのツアーに同行したそう。そんな監督が手がける本作は自身の自伝的作品であると同時に、ロック & ロールもとい60~70sカルチャーへのラブレターとも取ることができる。彼の一番のヒット作は本作だが、手がけた映画はほかにも『ザ・エージェント』『エリザベスタウン』『バニラスカイ』などがある。一見音楽とは関係なさそうな映画でも、彼はサントラの選曲に隙を見せない。各映画の要所要所で挟み込まれるのはRADIOHEADやR.E.M.、Todd RundgrenやTHE BEACH BOYSなどの名曲。これらの楽曲を使うことで映画に花を添える演出は『あの頃ペニーレインと』ほど知名度はないが、監督の溢れ出る音楽愛を感じ取れる。それはやはり青春時代を音楽に捧げてきたからであろう。

 そして、この作品の世界観にリアリティをもたらすのは素晴らしいキャスト陣。ケイト・ハドソン、フィリップ・シーモア・ホフマン、フランシス・マクドーマンド、ズーイー・デシャネル、アンナ・パキン、ジミー・ファロン。2000年に公開されたこの作品は、2021年現在でも映画やTVショーで目にする豪華キャストが名を連ねる。そして当て書きしたのでないかと思える程に、彼らの演技はハマりにハマってます。特筆すべきは主人公ウィリアムを演じたウィリアム・フュジット。彼のボンクラ童貞感は素晴らしいですね。歯を見せずに口角を思いっきり上に上げてみせる笑顔。真っ直ぐに相手を見つめる純粋な瞳。ツアーを通じて好きなバンド、ミュージシャンのゴタゴタを目にし、グルーピーたちとの甘い初体験も経験しながらライターとしての使命と、憧れのロック・ミュージシャンへの幻想と現実を目の当たりにして成長していく姿は、観ていて応援したくなります。そしてそれとは全く正反対な立ち位置にいる浮世離れした存在感を放つケイト・ハドソン演じるペニー・レイン。彼女の名前の由来はビートルズの曲名であることは言わずもがな。その名前に象徴されるように彼女はロック界のミューズであり、ロック & ロールが目指した理想そのもののようにも見えてくる。その存在感は彼女のキャリアの中でも屈指の名演だ。

 僕が最も好きなシーンは映画序盤、姉のアニタが家を出る時にウィリアムに言うセリフ。原語では「one day you’ll be cool. look under your bed, it’ll set you free.」。字幕では「いつか目覚めるわ。ベッドの下を見て。自由になるから」。吹き替えでは「いつか良い男になれる。ベッドの下を見て。自由が見つかるから」となっている。感慨深いセルフですね。“Cool”ってなんだろうか。僕はネイティヴ・スピーカーではないので、クールと言う単語が持つ意味をついつい考えてしまった。色々な音楽を聴いているアニタはクールか?音楽と向き合いそれについて物書きをするレスター・バンクスはクールか?バンドとして大勢の観客を前にプレイするスティルウォーターはクールか?或いは常に息子を気にかける母親はクールか?何をしていれば、或いはどんな人間であることがクールなのかという議論は劇中でもウィリアムとレスター・バンクスの会話の中でも繰り広げられます。実はこの映画に登場する全てのキャラクターはその答えを探しながらもがいていくのです。自分の理想のクールと現実とのギャップや矛盾と向き合う姿はとても人間味があり、その姿こそがこの映画の最大の魅力。そして彼らがその旅路(ツアー)を終わらせずに追求していく姿勢に胸を打たれますね。人生というツアーを音楽と共に楽しむ映画『あの頃ペニー・レインと』、オススメです。

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

Almost Famous あの頃ペニー・レインと

Screen Surfing January 2021『あの頃ペニー・レインと』 | Photo ©Reina Watanabe

[材料]
ウォッカ 40ml / フレッシュ・スイカジュース 適量 / 塩 適量 / レモン 少々

[手順]
01. ロックグラスのふちにレモンを塗り塩をつけてスノースタイルを作る。
02. グラスに氷を詰める
03. ウォッカを注ぐ
04. スイカジュースを注ぐ
05. スノースタイルを崩さないようにステアする

Screen Surfing January 2021『あの頃ペニー・レインと』 | Photo ©Reina Watanabe

 今回のシネマカクテルはキャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニーレインと』です。15歳のウィリアムは『ローリング・ストーン』誌の記者に抜擢され人気急上昇中のバンドのツアーに同行する。そこでバンドのグルービーのペニー・レインと出会い恋心を抱く!とロック少年の考えるザ・青春、ベタベタな映画かと思いきや劇中の音楽やセリフ回しなど、最高に突き刺さる一作!監督自身が15歳の時に記者となりその際の体験がもとになっている青春音楽映画です。

 冬のこの時期にスイカのカクテル!?とお思いでしょうが、フレッシュなスイカ・ジュースの上品な甘みをスノースタイルの塩がグッと引き出してくれる相性バッチリなカクテルをご紹介。スイカが手に入らない時期は市販の『チャバ 100%ジュース ウォーターメロン』などで代用すると良いでしょう。塩は粒が荒すぎるとグラスに付き辛く、細かすぎると溶けてしまうので注意が必要です。スイカ・ジュースを搾る際はミキサーで潰してしまうとザラザラとした食感が残ってしまうのでハンド・ジューサーで手搾りで行いましょう。丸々1個のスイカを搾るのはかなり手間ですが、その分美味しく仕上がるので気合です!アルコール度数も調整しやすいですのでお家で一杯飲む場合にも最適なカクテルです。

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 この作品を一言でいうなら青春映画?ロードムービー?
いやいや、まごう事なき音楽映画でしょう!本作は50曲を超える音楽をフィーチャーしたため、莫大なライセンス料がかかり、制作予算は通常の映画の2倍必要だったとか。そんな充実の劇中音楽を網羅的に聴きたいなら、Spotifyで原題の“Almost Famous”と検索すればOK、数多くのファン・プレイリストが出てくるし、オフィシャルのコンピレーション・アルバムもリリースされておりますぜ。ということでね、それらの焼増しみたいなプレイリスト作っても意味がないなと思ったんでね、ちょっと別の軸でこの映画にまつわるプレイリストを考えてみました。

 その名も「Anita’s Record Collection」。映画序盤、姉のアニタ(ズーイー・デシャネル)が家を出るとき、主人公ウィリアム(パトリック・フュジット)にレコード・コレクションをこっそりプレゼントします。「ロウソクをつけて聴くと未来が見えるわ」なんて小粋なメッセージを添えて。この場面、お気に入りなんですよね。なので今回はこのシーンに実際に登場するレコードの中から選曲してみました。アニタのコレクションは1960年代後半から1970年代初頭の名盤ばかり。この年代の音楽に今まで縁がなかった人もプレイリストの11曲から好みのテイストを見つけみるのはいかがでしょう。かく言う俺もこの企画のおかげで当時の音楽に改めて触れる良い機会をもらえました。半世紀前の音楽に気軽にアクセスできるなんて2021年も悪いことばかりじゃないですよね。本年もたくさんの素敵な音楽と出会えますように!

Post Script

 2021年になりました。世相は変わらずコロナ一色ですが、本年も変わらず胸ときめく映画と音楽、そして特製カクテルをご紹介していきます。新年最初の1本は2000年公開の『あの頃ペニー・レインと』です。
過去に我々のイベントでも野外にて上映したのですが、当日は若い世代のお客さんも多く詰めかけ、20年近く前の作品ながら今なお多くの若者を魅了する本作の魅力を改めて感じられました。音楽映画といえば名前の挙がる作品です。観たことがある方も、まだ観たことがない方も、カクテルとプレイリストと合わせてぜひご鑑賞ください。本年もScreen Surfing、そしてHalf Mile Beach Clubをよろしくお願い致します。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
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https://www.half-mile-beach.com/

2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。2020年10月に目下最新シングル『Surf Away』をリリース。