Column | Screen Surfing July 2020『007 カジノ・ロワイヤル』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 「Half Mile Beach Club(HMBC)」は、2013年から定期開催している複合型のカルチャー・イベントです。神奈川県逗子市のシネマ・カフェ「CINEMA AMIGO」を会場に、映画上映、ライヴやDJからなるイベントで、映画にちなんだオリジナル・カクテルも販売。過去16回に渡って開催してきました。HMBCはイベントと同名のグループ = Half Mile Beach Clubが主催・運営し、グループにはバンド、DJ、フォトグラファー、バーテンダーと様々な役割を持ったメンバーが在籍しています。

 イベント「HMBC」は、夏と冬、季節ごとの逗子の街並や雰囲気に合わせて、映画や音楽、お酒を心地良く楽しめる場をコンセプトに開催してきました。しかし現在、COVID-19の影響を受け、例年通りの開催については多くの課題を抱えている状況です。こうした状況に対して、逗子や「CINEMA AMIGO」のような空間とは異なるものの、HMBCがセレクトした映画、音楽、オリジナル・カクテルを読者の皆様それぞれのお部屋で楽しんでいただけないかと考え、この連載をスタートしました。

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画にちなんだ音楽プレイリスト、特製シネマ・カクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載していきます。言い換えれば、HMBCセレクトによるパーティのレシピのような内容です。

 第1回は、『007 カジノ・ロワイヤル』をテーマに、作品の紹介、同作をイメージしたメンバー選曲による楽曲プレイリスト、特製シネマ・カクテルのレシピをお送り致します。

 COVID-19以降の“これまで通り”とはいかない日常において、日々の暮らしにおける映画、音楽の重要性をこれまで以上に実感しています。自粛の最中にあったからこそ、途絶えることのない新作、まだ知らなかった旧作、それら全てが立ち並んだ画面を前に、何時間もSurfingした人は少なくないと思います。そんな“Screen Surfing”のガイドとして、この連載をお楽しみいただければ幸いです。

今月の作品『007 カジノ・ロワイヤル』

文 | Shin (DJ)

 ダニエル・クレイグ版ボンドの魅力は『スカイフォール』でも『スペクター』でもなく、『カジノ・ロワイヤル』だと僕は公言しています。もっといえば、『カジノロ・ワイヤル』と『慰めの報酬』の2作こそがクレイグボンドの魅力に溢れています。この2作品には共通して主張強めな要素があります。それは即ち、“生身感”です。

 まずボンドが全然チャラくないんですね。今までの『007』シリーズのボンドといえば、マティーニを煽って、なりふり構わず女性を口説きまくって仕事をこなす(それで成立する職業ってのがまずムカつく)、所謂プレイボーイなイメージでした。しかし今回は女性に対してとても奥手なんですよね。なんせこのクレイグボンド、せっかく00エージェントになったのに、好きになった女性に「あなたの仕事、続けてたら心が腐っていきそうね」なんて言われたら、あっさりと「君の言う通りだ……この仕事辞める!君のことを愛してるからずっと一緒に暮らそう!」と言う始末(苦笑)。そんな純なボンド、一途でロマンチストなボンド、いいですねー。

 しかしロマンチストなクレイグボンドは、言い換えればちょっと根暗なんですよね。暴力描写に関しては割と恐めの演出が施され、ボンド映画名物の“人を殺して捨てゼリフ”に関しては皆無。従来のボンドなら“人殺しなんて朝飯前だぜ!”って感じで淡々と敵をスタイリッシュにキルするのですが、このクレイグボンドは雑魚キャラをキルするにも、もうそれはそれは必死必死!血塗れ泥塗れ傷だらけで敵をキルしたと思ったら、ちょっと苦悩しちゃう。とにかく悩むんです!人を殺して悩む……。愛する女性を傷付けてしまい悩む……。仕事が上手くいかずに悩む……そしてキレる!笑。なんとも人間臭いボンド像を確立しています。

 人間臭いボンドといえば上裸シーンが多いのも見所ですね。ボンドガールがセクシーな水着を着るシーンではなく、ボンドがセクシーな水着を着ているサービス・シーンがやたら多いんです。撮影前は割と細身だったダニエル・クレイグは映画の為に過酷な筋力トレーニングを行い、筋肉をつけたそうです。タキシードスーツを着こなすために大き過ぎず、しかし身体全体にバランスよく筋肉をつけたクレイグの筋肉……見事です。

 こういった要素は本作の続編にあたる『慰めの報酬』にも引き継がれ、まだまだ悩んでます。そして『スカイフォール』でようやく老成したベテラン00エージェントに、『スペクター』では遂に我らが抱くプレイボーイボンドに大成長!今年公開の『ノータイムトゥダイ』ではクレイグボンドも遂に引退。その前にぜひ、僕らに一番近いヤングな生身のボンクラボンドを堪能できる『カジノロワイヤル』はボンド映画初心者にもオススメです!

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

Vesper ヴェスパー

[材料]
ゴードン・ジン 90ml / ウォッカ 30ml / キナ・リレ(リレ・ブラン) 15ml / レモンピール

[手順]
シェイカーにゴードン・ジン → ウォッカ → キナ・リレ(リレ・ブラン)の順に入れ、氷を詰めてシェイク。カクテルグラスに注ぎ、レモンピールを飾る。

月刊HMBC: Screen Surfing | Photo ©Reina Watanabe

 今回ご紹介するカクテルは、映画界一有名なシネマ・カクテル「ヴェスパー(Vesper)」です。

 ジェームズ・ボンド連作小説中、第1作の『007 カジノ・ロワイヤル』(1953年)で原作者イアン・フレミングが考案しました。名前の由来はボンドの恋人役(ボンドガール)の名前“ヴェスパー・リンド”から。ボンド・マティーニとしても知られるこのカクテルですが、ジェームス・ボンドはこれ以外にも様々なマティーニを注文しているため、ヴェスパーのみが“ボンド・マティーニ”というわけではありません。

 一般的なウォッカ・マティーニとは違い、イギリス産ドライ・ジンとウオッカを使用。オリジナル・レシピで使用されるキナ・リレは現在では生産中止となり、入手が困難のため、リレ・ブランで代用し、少量キニーネの粉末を入れるとオリジナルの様な上品な苦みを再現できます。

 映画でのでヴェスパー・リンドを口説くシーンでは、
ボンド 「このカクテルをヴェスパーと呼ぶことにしよう」
ヴェスパー 「後味が苦いから?」
ボンド 「いや、一度味を知ってしまうと、これしか飲みたくなくなるんだ」

なんてやり取りも印象的でした。飲み口はかなり強いカクテルですが、少し酔いたい夜に一杯傾けてみてはいかがでしょうか?

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 HMBCメンバーが毎月1本の映画をテーマに楽曲をセレクトするプレイリスト、今回は『007 カジノ・ロワイアル』。20作以上の映画が作られている歴史的シリーズということで、数多くの007関連楽曲が存在しており、本プレイリストにもおなじみのメイン・テーマ「James Bond Theme」のMobyリミックスや公開予定の最新作『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌であるBillie Eilishの「No Time To Die」など所縁ある楽曲が散りばられた仕上がりに。007関連の楽曲以外にもUKロックからモダン・ジャズ、実験的なエレクトロニックまで縦横無尽なサウンドが紡がれる60分は思いのほかドラマチック!

 ジャンルも時代もバラバラな楽曲群に脈略を感じるのはサウンドに通底して“エレガントさ”と“野性味”といったフィーリングを感じるからかな。このフィーリングこそ『カジノ・ロワイアル』から始まるダニエル・クレイグ版『007』の醍醐味なんじゃないでしょうか。映画を観た後はぜひこのプレイリストで余韻に浸ってください。

Post Script

 「Screen Surfing」、これから毎月様々な映画、音楽、そしてカクテルを紹介していきますので、休日や仕事終わりなど、パーティのレシピとして、ご自宅でお楽しみ頂けると嬉しいです。

 最後にHMBCからお知らせです。先月HMBCのウェブストアを開設しました。これからの時期にうってつけのオリジナルTシャツなどを販売しておりますので、チェックしてみてください。それでは、また来月お会いしましょう。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
Twitter | Instagram
https://www.half-mile-beach.com/

2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。