Column | Screen Surfing February 2021『パイレーツ・ロック』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画に因んだ音楽プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載する“Screen Surfing”。第8回目となる今回は、『パイレーツ・ロック』をテーマに、作品の紹介、同作をイメージしたメンバー選曲による楽曲プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピを掲載しています。

 今回ご紹介する『パイレーツ・ロック』は、1960年代の英国を騒がせた海賊ラジオ局を舞台にした音楽映画。絢爛豪華、一癖も二癖もある俳優陣がDJ役で出演。彼らが描けるオールタイム・ベスト的な選曲のサウンドトラックが堪らない作品です。監督 / 脚本はリチャード・カーティスということで、音楽を巡る恋に友情、味わい深いヒューマン・ドラマを見せてくれます。本作をイメージして作られた特製シネマカクテルと、作品に因んだプレイリストと一緒にぜひお楽しみください。

今月の作品『パイレーツ・ロック』

文 | Shin (DJ)

 Neil Young、CREAM、Iggy Pop、THE WHO、Bob Dylan、THE BEATLES、Jimi Hendrix、David Bowie……。1960、70年代に登場したミュージシャンたちは今でも僕らの心を掴んで離さない……。はい、ここまで先月のコラムのコピペです(苦笑)。というのも、今月取り上げる映画もまた同時代の音楽をフィーチャーした映画だから。って訳で今月も……僕らが憧れを抱き続ける60年代、そしてブリティッシュ・ミュージックへのラヴレター映画!今月の映画は『パイレーツ・ロック』です。ロックンロール!!!

 ストーリーは……できれば予告編をご参照いただきたい。この映画の物語は予告編を上回る展開は一切用意されていないからだ(笑)。一応簡単に説明すると、舞台は1966年のイギリス。ブリティッシュ・ロック全盛期だというのに、国営放送局のBBCラジオが流すポップス音楽は1日45分以下だった。だが幸運なことに海賊ラジオ局なる船が領海外に停泊し、24時間ロック、ポップス音楽だけを放送していた(ここまで実話)。その船に乗船することになった若者のカールが一癖も二癖もあるDJ達と楽しく過ごして成長するってお話(ここはフィクション)。

 まず、この映画において僕が好きなところを挙げさせていただききますと、“拍手”です。この映画、“拍手”がものすごく多いんです。キャラクターたちはみんな何かある度にお互いに拍手を送ります。例えば彼らがゲームをするシーン。著名人の名前当てモノマネゲームや、告白ゲームをするとき。彼らは決まってゲームの勝敗に関わらず一戦交えた後、軽くお互いに拍手を送ります。さらに結婚式ではもちろん、何か決めごとをしたあと、仲間が愛する人と一夜を共にした後でさえ、拍手を送ります。細かい描写ですが、この描写は実生活でも取り入れたいくらいに素敵だなーと思う次第です。閑話休題。

 さてこの映画、パイレーツってだけあって、舞台はほとんど船の上。その船の上というワンシュチュエーションのみで60年代の空気感を感じ取れるのが素晴らしい。シーン毎に彩るのは、60年代を象徴するカラフルな花柄シャツや、タイトな3つボタンのスーツ。それらを纏った長髪 & 立派なモミアゲのブリティッシュ役者たちの演技もまたブリリアント。登場するDJクルーは映画的に誇張されているとはいえ、当時に実在したDJをモデルにしているそうです。そしてそのDJ像を最大限生かせるようにキャスティングされた役者たちは正に水を得た魚!今やイギリス映画には欠かせないビル・ナイ、ニック・フロスト、クリス・オダウド、ケネス・ブラナー、リス・エバンス、そして先月取り上げた『あの頃ペニー・レインと』でも大活躍だった、フィリップ・シーモア・ホフマン。どの役者もずっと観ていられるほどユーモアたっぷりに嬉々として演じています。この映画の魅力は音楽だけでなく、彼らの功績によるものが大きい。

 映画は一般的に3幕構成と言われている。3幕構成とは簡単に説明すると……1幕目 = オープニング。2幕目 = 展開。2幕目 = クライマックス。これが1対2対1の割合で映画が成立するのが望ましいとされている。しかしこの映画の場合はどうだろう。この映画はあるできごとが始まり、15分から20分で一段落する。そしてまた別の出来事が起き、15分から20分で終わる。そう、この映画は15分から20分を繰り返している映画で、3幕構成とは言い難い。だがそれで映画の良し悪しが決まるかというとそうでもない。良い意味で流し見することもできるし、じっくり世界観に堪能することもできる。まるでシットコムをワンシーズン分連続再生しているような感覚に近い。それもそのはず、監督はイギリスが誇るシットコム『Mr.ビーン』の脚本家、リチャード・カーティスだからだ。

 リチャード・カーティスはイギリスという国、そしてイギリス人の良心を映画にしてきた脚本家であり監督だ。『Mr.ビーン』ではユーモアを、『ノッティングヒルの恋人』ではロマンスを、そして『ラブ・アクチュアリー』では人間賛歌、『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』では人生賛歌を映画にしてきた。そしてこの映画では海賊船を通してロック音楽の、いやポップス音楽の全肯定に満ちあふれた映画を作った。サントラのライナーノーツには監督からのメッセージが冒頭に載せられている。そこから一部引用しよう。

私は新しい音楽を否定し、昔は良かったとする人たちに同調しようとは思わない。今でも、沢山の素晴らしい曲が作られているのだから。一方で、しかし60年代に偉大なポップ・ソングが次々に生まれたこともまた事実である。

 まるでDJのリチャード・カーティスが、「パイレーツ・ロック」という1曲の音楽をかけているようだ。サントラから垣間見られる彼の音楽趣向は決して通というわけでも、オタク的でも、ましてや偏屈でもない。“ヒット・チャート・トップ10”的な大衆ポップ・ソングが好きということだ。詰まるところ彼は、そんなポップ・ミュージックのリスナーでいることがいかに幸福であるかということを描いているのだ。いつの時代にも偉大なポップ・ソングは誕生している。それは80年代だろうが、現代だろうが同じだ。その時代に誕生する名曲を聴くことができるという喜びをこの映画は教えてくれる。音楽を聴くことに、映画を観ることに捻くれた感覚も穿った見方も必要ない。どのシーンを切り取っても常にカラフルでハッピー。そしてそのどのシーンにも抜群にポップな音楽が流れている。正にラブ & ピースなポップス映画『パイレーツ・ロック』!オススメです!ロックンロール!!!

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

Negroni ネグローニ

Screen Surfing February 2021『パイレーツ・ロック』 | Photo ©Reina Watanabe

[材料]
ドライ・ジン 30ml / カンパリ 15ml / スウィート・ベルモット 15ml / オレンジ 1/8カット

[手順]
01. ロックグラスに氷を詰める
02. ドライ・ジンを注ぐ
03. カンパリを注ぐ
04. スウィート・ベルモットを注ぐ
05. ステアする
06. カットしたオレンジを添える

 ブリティッシュ・ロックが全盛期を迎えた1966年のイギリス。領海外に停泊した船からロックを24時間流し続け、熱狂的に支持された“海賊ラジオ局”を舞台に、ポップ・ミュージックに情熱と愛情を注ぐDJたちと彼らとともに暮らす人々を描いた群像劇。音楽、そしてファッションも抜群のセンスが光る一作。テンポのいいポップな演出、ロック・ファンには痒いところに手が届き、人目を気にせず踊りたくなる。そんなハイになれる作品です。

Screen Surfing February 2021『パイレーツ・ロック』 | Photo ©Reina Watanabe

 今回、ご紹介するカクテルは『ネグローニ』。作中にも登場するフィリップ・シーモア・ホフマンが演じる“ザ・カウント(伯爵)”をイメージした一杯です。もとはイタリアはフィレンツェの美食家として名高いカミーロ・ネグローニ伯爵がアペリティフ(食前酒)として愛飲していたカクテルです。ロンドン・ドライ・ジンの気品ある風味とカンパリの苦み、ベルモットの優しい甘さが織り成す、上品ながらグッとアルコールも感じられる一杯です。

 そしてカクテルにも花言葉と同じように「カクテル言葉」というものがあります。『ネグローニ』のカクテル言葉は“初恋”。スウィート・ベルモットの甘みとオレンジの華やかな香りが恋を連想させますが、カンパリの苦みもあり作中の主人公カールの初恋のような複雑な心模様に思いを馳せながら傾けて欲しい一杯です。

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 はじめての『パイレーツ・ロック』は2016年の「逗子海岸映画祭」。メンバーとビールを飲みながら海をバックに海賊ラジオ局の物語を鑑賞する特別なシュチュエーションのせいか、はたまたアルコールのせいかわかりませんが、物語終盤の流れに思いっきりヤラレてしまい、ロックのダイナミズムを感じる曲を作りたくなった思い出が蘇ります(その時のフィーリングは「MONICA」という曲に後に昇華されました)。やや冗長なコメディ要素が気になる映画ではありますが、ロックに首ったけの10代を送った身としてはやはり終盤の映画のメッセージ、真に受けてしまうんですよ。

 沈没する海賊ラジオ船の中でラジオDJ“伯爵”は死を覚悟しながらこう宣言します。
「今ただひとつ悲しいのは今後誕生するであろう素晴らしいロックの名曲の数々を俺たち自身がこの手でかけられないことだ。だが、どうか信じてくれ、それでも名曲は生み出され、ずっと歌い継がれ、それらの曲が奇跡を生むんだ」

 ロックはその時代ごとに多くの人に影響を与えながら継承と発展を繰り返し、今日のカルチャーへと続いてきているわけで、アジアの極東にいる私たちとてそのダイナミズムの中で恩恵を多分に受け取っているんだよなぁとしみじみ。ということで今回のプレイリストは偉大なるロックの先人達と海賊ラジオ局「Radio Rcok」にリスペクトを込めたプレイリスト。海賊ラジオ黄金期を終えた1967年以降にリリースされたロック名盤群から「Radio Rcok」が存続したらきっとプレイされていたであろう曲の数々がコンセプト。現代まで時系列順に並べたので、ちょっとしたロック・ヒストリーの旅としても楽しんでいただければ!ロックンロール!

Post Script

 今回は『パイレーツ・ロック』をご紹介。Yamaも文章で触れていますが、この作品は2016年の「逗子海岸映画祭」で上映され、メンバーと一緒に鑑賞した、HMBCクルー的には思い出の作品。音楽にまつわるチームを組むこと、その醍醐味を教えてくれるような映画で、メンバーそれぞれ様々な側面で影響を受けてきたことが今回の記事を読んでいただくとわかるかと思います。華やかなファッション、小洒落たジョークと会話、法の穴をかいくぐってでもポップ・ミュージックを世の中に届けようとする信念と熱情……。音楽を楽しむスタイルは人それぞれ時代によって様々ですが、60年代英国のそれにはどうも憧れずにはいられない何かがあるなと思います。それでは、また来月お会いしましょう。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
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https://www.half-mile-beach.com/

2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。2020年10月に目下最新シングル『Surf Away』をリリース。