Column | Screen Surfing August 2020『ショーン・オブ・ザ・デッド』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画にちなんだ音楽プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載する“Screen Surfing”。

 第2回目の今回は『ショーン・オブ・ザ・デッド』をテーマに、作品の紹介文、同作をイメージしたメンバー選曲による楽曲プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピを掲載しています。

 帰省もフェスもない、例年とは異なるお盆休みを経た8月、暇を持て余した熱帯夜に英国産ゾンビ・コメディをご提案。00年代インディペンデント・ムーヴィーの中でも特に愛される『ショーン・オブ・ザ・デッド』を、ウォッカの香るダークなカクテル、ブリティッシュ・マナーの効いた80-90sプレイリストと共にぜひお楽しみください。

今月の作品『ショーン・オブ・ザ・デッド』

文 | Shin (DJ)

 今回ご紹介する映画は『ショーン・オブ・ザ・デッド』。まあ所謂ゾンビ・コメディ映画ですよ。イギリスの田舎町に暮らす主人公ショーンは仕事もプライベートも冴えない毎日。同居人で親友(ダチ)のエドとはいつだって一緒の大の仲良し。普段通りの何も起こらない、つまらない生活を送っていたはずなのに、町は未知のウィルスに感染したゾンビたちに溢れていた……!恋人のリズを救出して地元の行きつけのパブ、ウィンチェスターを目指すが……というお話。

 久しぶりに観返してみるとこの映画、非常に良くできてるんですねー。ただのゾンビ・コメディかと思いきや、序盤に登場するモブキャラや登場人物が交わす些細なセリフは実は物語の重要な伏線になっているので、ただ笑わすためのコメディ描写かと思ってるとその後の展開に活きてくる描写だったりするため、洗濯物を畳みながら流し見なんてできません。むしろ2回、3回と観て作品の出来やおもしろさに気付いて大好きになるような映画です。

 イギリス映画好きには堪らない要素も豊富ですね。常に天気は曇り空。映画を彩る音楽はやはりブリティッシュ・ロックの数々。キャストはほぼ監督の古い友人たちで、シットコムや舞台で名を馳せたブリティッシュ・アクセントの俳優達。アメリカ発祥のゾンビというジャンル映画とイギリス映画らしさの融合は当時新鮮だったようです。前半はイギリスらしい皮肉の効いたコメディ要素が多めですが、後半からは本格的にゾンビ映画らしくなり、ダークな展開になっていくのも引き込まれます。

 僕がこの映画で一番好きなキャラクターはニック・フロスト演じるエド。彼は誰がどう見たってダラしないロクでなし野郎。誰の前でも言葉遣いは悪いし、口を開けば下品なギャグを撒き散らす。仕事もしないで収入はハッパを売って小遣い稼ぎするだけ。しかし、人としては最悪な彼でも、どこか憎めず愛らしさを感じさせます。朝からハッパを吸いながらゲームをするエド。ずっと家にいるのに部屋の掃除もせず股間を掻きながら電話をするエド。スポーツカーに乗りたいからってそれまで乗っていた車をぶっ壊すエド。カーアクション映画で学んだと思われる、無意味なドリフト走行を披露するエド。そんな運転中でもゾンビが寄ってくるから止せば良いのに爆音でゴキゲンな音楽をかけるエド。非常に中学生スピリットに溢れた感性の持ち主ですね笑。

 ですがショーンにとっては切っても切れない関係。傷心中の彼をウィンチェスターに連れ出して、バカ丸出しのお猿さんモノマネや、下品な下ネタで笑わせて慰める。ベロベロになるまで酔っ払って家に帰ったら近所迷惑上等って感じで爆音でエレクトロをかけてふたりでダンスタイムを楽しむ。人としてはダラしないやつでも、ダチとしては最高の奴です。そんな彼が映画ではどんな結末を迎えるのか……。ゾンビ映画に革命をもたらした彼の最後は必見です!

 この映画は“コルネット三部作”と呼ばれる3部作の1作目に位置付けされています。監督のエドガー・ライト、主演サイモン・ペッグとニック・フロストの3人で脚本と制作を兼任し、手掛けた3部作は『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』『ワールズ・エンド』。どの作品もジャンルは異なりますし、ストーリーも繋がってはいません。しかしこの3部作の共通点は幾つもあります。一番の共通点は主人公が皆「大人に成りきれなかった大人達」という点です。映画を観過ぎて、漫画を読み過ぎて、ロック音楽を聴き過ぎて、時間が過ぎ去ってしまった大人達。そんな中学生スピリットを持ったままの大人達が、どうやって大人に成っていくのか……というストーリー。こういったテーマには概ねお決まりの教訓がありますよね。単純な話、そんなスピリットは捨ててしまえ。責任ある大人として真面目に仕事しろ。健康に気を遣え。老後を考えろ。耳が痛いくらい、大人に成るための通過儀礼であることは事実ですし、確実に人生において大事なことではあります。しかし、コルネット3部作の主人公達は皆、決して中学生スピリットを捨てることはありません。ろくでなしと言われようが、負け犬と言われようが、車と音楽とダチがいればなんだってできるし、どこへだって行ける。この3部作の主人公達は大人の通過儀礼に対して、中学生スピリットを持ち合わせてこそ辿り着ける領域がある!ということを教えてくれる映画です。ぜひ、3部作合わせてお楽しみください!

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

Shaun of the Dead ショーン・オブ・ザ・デッド

[材料]
ブラヴォド ブラック ウォッカ 30ml / オパールネラ ブラックサンブーカ 10ml / ウィルキンソン ジンジャエール(辛口) 適量 / ブラックペッパー 少々 / ライムカット 1カット / 目玉ゼリー 1個

[手順]
01. ロンググラスに氷を詰める
02. ブラヴォド ブラック ウォッカを注ぐ
03. オパールネラ ブラックサンブーカを注ぐ
04. ウィルキンソン ジンジャエール(辛口)で満たす
05. ライムを絞る
06. ブラックペッパーを少量入れステア
07. 目玉ゼリーを飾る

Screen Surfing August 2020『ショーン・オブ・ザ・デッド』 | Photo ©Reina Watanabe

 CINEMA COCKTAILレシピ、第2回は低予算ながらもイギリスで大ヒットしたサイモン・ペグ主演のゾンビ・コメディ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』。過去のゾンビ映画のオマージュがふんだんに盛り込まれて、怖さとおもしろさのバランスが絶妙!ゾンビ映画初心者な方にもオススメな同作品のイメージ・カクテルです。

 珍しい黒いウォッカ『ブラヴォド ブラック ウォッカ 』を使用。アニス系のリキュール『オパールネラ ブラックサンブーカ』の上品な風味と辛口のジンジャエールの爽快な飲み口が特徴です。作中のコミカルなグロテスクさをイメージし、黒くインパクトのある色合いと目玉のゼリーがチャームポイント。

 ステアする際はカクテルの炭酸を飛ばさないことが最も重要となります。バースプーンをグラスのふちから底へそっと静かに入れ、氷を少し持ち上げるように1、2回ほど上下させると炭酸の気泡によって自然と材料が混ざっていきます。目玉ゼリーは市販されているものを使用するか、自作する場合は少し硬めに仕上げるとよいでしょう。

 二日酔いから目覚めた朝、ゾンビが蔓延る街並みに急変したパブに逃げ込んでひっかけて欲しい一杯です!

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 映画をテーマにメンバーそれぞれが音楽をセレクトするオリジナル・プレイリスト、今月は『ショーン・オブ・ザ・デッド』。この映画を象徴する音楽として、まず誰しもが思い浮かぶのはQUEENの「Don’t Stop Me Now」でしょう(音楽と映像のアクションがシンクロする演出は後に同監督が制作する『ベイビードライバー』でより洗練され最高に仕上がってるのでこちらもぜひ)。

 しかし本作は劇伴の他にも音楽小ネタが満載、我々のようなボンクラ音楽好きが酒の肴に盛り上がれちゃう最高な音楽映画でもあるんじゃないでしょうか……!例えば物語中盤のゾンビに投げつけるレコードを選ぶコミカルな会話劇、主人公の絶妙なレコード・コレクションを巡るやりとりは彼のキャラとマッチしてニヤニヤしてしまうし、演出のディテールがとにかく丁寧で監督の音楽愛にグッときてしまいます。

 ということで、今回はレコード・コレクションをはじめ、劇中に登場する音楽ネタや主人公ショーンのキャラクターをモチーフとしたプレイリストに仕上がりました。「きっとショーンはロンドンでこんな音楽を聴いて暮らしてたんだ」なんて妄想をしながら映画の余韻に浸るのも一興ですよ。

Post Script

 イベント「Half Mile Beach Club」では映画の野外上映を行っていますが、毎年の作品選定時に必ずといっていいほど名前のあがる『ショーン・オブ・ザ・デッド』。夏の野外にて、ビール片手にショーンとエドのボンクラなやりとり、グロと笑いに満ちたゾンビとの攻防を楽しむ……いつか実現してみたい光景です。

 今年は残念ながら夏の「Half Mile Beach Club」開催を見送る形となりそうですが、例年の夏開催の模様はオフィシャル・サイトの写真アーカイヴからご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてください。それでは、また来月お会いしましょう。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
Twitter | Instagram
https://www.half-mile-beach.com/

2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。今年8月19日にはSpotifyでPodcast「Podcast “AGITA” 2020年8月号」を公開。