Column | Screen Surfing May 2021『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画に因んだ音楽プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載する“Screen Surfing”。第11回目の今回は『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(原題『About Time』)をテーマに、映画の紹介、作品をイメージしたメンバー選曲の楽曲プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピをお送りします。

 『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』は、以前当連載でも取り上げた『パイレーツ・ロック』の監督、リチャード・カーティスが脚本・監督を手掛けたロマンティック・コメディ。タイムトラベルを使える特殊な家系に育った主人公・ティムが、その能力を使って、家族や友人、恋人と様々なライフ・タイム・イベントを経験し、人生を前に進めていく物語です。SF映画のような設定でありながら、等身大の日常にフォーカスを当てた作品ということもあり、観る者の人生観を刺激するような作品で、人生のフェイバリット・ムーヴィーにあげる人も多いのではないでしょうか。ロマンティックな演出、登場人物の人生と同期するように伴奏されるすばらしいサウンドトラック、心を掴んで離さない脚本など、『ラブ・アクチュアリー』や『パイレーツ・ロック』を手がけてきたリチャード監督の集大成とも言える作品です。作品をイメージしたオリジナル・カクテルと、HMBCオリジナル・プレイリストと共にぜひお楽しみください。

今月の作品『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』

文 | Shin (DJ)

 映画館で同じ映画を何度も観た経験はありますか?最近だと『鬼滅の刃』『花束みたいな恋をした』などの作品がロングラン・ヒットし、リピーターが続出したと聞きますし、『アベンジャーズ / エンドゲーム』を191回映画館で観たファンがギネス記録達成、なんてニュースも耳にしました。とはいえ、コアな映画ファンでも同じ映画を映画館で繰り返し観ることは少ないでしょう。DVDで何度か見返すことはあっても劇場ではさすがに多くても2回くらいじゃないでしょうか。僕も2回観た映画は何度かあります。『エクスペンダブルズ』『ラ・ラ・ランド』は2回、『ワイルド・スピード / スーパーコンボ』は3回。まあそのくらいだと思っていましたが、思い出しました。今回ご紹介する映画『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(2013)を当時、劇場で11回観にいきました!

 舞台はイギリス南西部の海辺の街、コーンウォール。その街で家族と暮らすザ平凡な青年ティムは21歳の誕生日に父親から過去へとタイムスリップできる能力があることを知らされる。彼女もいないティムはその能力を恋人ゲットのために活用するようになる。就職してロンドンに引っ越した彼はメアリーと恋に落ち、彼女との人生を歩み始める。もちろん、タイムトラベル能力を持つ彼は人生の様々な問題をその力を活用して解決していくのだが……。

 この映画を初めて観るかたがいたら非常に羨ましい……。劇場公開された2013年当時、誰かにオススメの映画を聞かれた時は、とにかくこの映画を観ろと言っていました(笑)。僕は基本的には筋肉ムキムキのアクション・スターが登場する映画が好みでして、映画にはハラハラやドキドキを求めていたため、あまりラブコメ映画は観てきませんでした。そんな僕が劇場に11回足を運ぶくらい、完全にこの映画に恋していました(笑)。なぜこんなにこの映画に心酔していたかというと、つまるところ、“なんでもない普通の人生”がいかにすばらしい人生かということを、映画として完璧に描き切っていたからです。

 もちろん最初はメアリーに恋に落ちたティムがタイムトラベル能力を使って彼女とどう結ばれるかを描くラブコメ映画だと思っていました。ティムがタイムトラベルする理由というのは至極単純な理由。基本的に女の子のことだけにタイムトラベル能力を使う。大晦日にキスできなかった女の子にキスするために過去に戻ったり、初恋の女性、シャーロットとの関係に対しても上手く立ち回るために能力を駆使したりするが、なかなか上手くはいかない。もちろんこの類の映画にお決まりのタイム・パラドックス、あるいはバタフライ効果的な説明も必要になるが、そこはサラッと描き、あまり考えなくて良いくらいの理解で収まる。そして映画はメアリーとティムの関係、即ち家族を作ることにシフトしていく。映画の中盤にはメアリーと結ばれたティムはタイムトラベル能力を使わなくなっていく。それがこの映画の肝だ。タイムトラベルが主題でも、どう女の子と付き合うかがテーマでもない。家族を築いていくこと = 他者と人生を歩んでいくことのすばらしさがこの映画のテーマなのがグッとくる。

 監督のリチャード・カーティスはこの映画で映画監督を引退すると公言していた(2021年現在、この作品以降撮った作品は短編作品のみ)。当時のインタビューではこう語っている。

「この作品を映画監督としての集大成にしようと思っている。物語のテーマは家族。恋をして、結婚して子供が生まれ、家族を築いていくことのすばらしさを語っている。何気ないことがかけがえのないものに変わることを感じてほしい」

 まさにこの映画は家族、他者を大事にすることの重要性、そして何より、今という時間を愛し、生きていることがどれだけ幸せかを語っている。劇中ティムは、女の子のためだけではなく、同居人や家族のため、同僚のためにも何度かタイムトラベルする。しかしこの過去に戻るという行為そのものが映画の本筋をわかりやすく伝えるためのギミックにしか過ぎないのがすばらしい。この映画のラストには、安い名言集のように聞こえるほどクサイ言葉で人生讃歌を語るのだが、そんなことは気にもならないほどこの映画は2時間たっぷり全編かけて、多幸感に満ちた“普通の人生”を語る。何かとこの不安定な今の時代に必要なマインドを持った映画、オススメです!

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

About Time アバウト・タイムScreen Surfing May 2021『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』 | Photo ©Reina Watanabe[材料]
苺 3~4個 / カルヴァドス 45ml / ライムジュース 10ml / グレナデンシロップ 5ml / ピンク・ペッパー(砕いたもの) 少々

[手順]
01. 苺をブレンダーにかけて、ミックスする。
02. ボストン・シェイカーに移し、ライムジュース・グレナデンシロップを注ぐ。
03. バースプーンで軽く混ぜる。
04. カルヴァドスを注ぎ、氷を詰めシェイクする。
05. ストレナーで氷を抑えながら、カクテルグラスに注ぐ。
06. お好みでピンク・ペッパーを少量入れる。

 フレッシュのイチゴを贅沢に使いザクロのシロップとリンゴのブランデー「カルヴァドス」を使用したカクテル。生のイチゴならではの豊かな風味と甘みが、フランスのノルマンディー地方で作られる林檎を原料とした蒸留酒・カルヴァドスの上品な香りを引き立たせます(同地方以外で作られる同様の蒸留酒はカルヴァドスとは名乗れず「アップル・ブランデー」と呼称され、区別されます)。絶妙な味のバランスで作られるためブレンドには熟練の技が必要とされます。

 ブレンダーをお持ちでない場合はボストン・シェイカーに直接、イチゴを入れて丁寧に潰してもOK。甘い口当たりですいすいと飲めてしまいますがアルコール度数は20%程ですのでご注意下さい!少し飲み口にパンチが欲しいなら、砕いたピンクペッパーを少量振りかけると違った風味を楽しめます。

 劇中でジェームズが語る“幸せになる秘訣”の「毎日を同じようにもう一度繰り返す」と同様、こつこつと積み上げてきた伝統的な製法と熟練の知識を用いて作れれるカルヴァドス。ぜひ、映画の後に父ジェームズを思いながら、ゆっくりと傾けてほしい一杯です。

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 この映画に寄り添うプレイリストを作るなら絶対に歌の意味合いを理解した選曲でなくちゃいけないな。。久々に映画を見直してみてそう強く思ったんですよね。『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』は、何度か観ている作品ですが、観るたびにエモーショナルで、それでいて穏やかな気持ちになる。間違いなく私のオールタイム・フェイヴァリットのひとつです。この映画への愛情を語るとそれだけで文字数を使い切ってしまうので、音楽へフォーカスして冒頭まで話を戻しますね。

 なぜ歌への理解に重点を置きたかったかというと、この映画を観た人なら共感してもらえると思うんですが、劇中に流れる音楽はすべからく選曲に明確な必然性を帯びてると感じるんです。歌詞の内容がストーリーとシンクロしていたり、劇中の人物にとって物語を持った選曲だったり、決してただの雰囲気作りのBGMじゃないんです。それぞれの場面で流れるべき音楽が流れている印象があるんですね。だから、なんとなく雰囲気が合いそうなサウンドをまとめてプレイリストを作ることはこの映画へのリスペクトを欠いてる気がしてしまいます。いつも以上に歌のテーマやフィーリングが映画と呼応してるものをチョイスしたい。そうなると日本語ネイティヴの自分としては必然的に日本語の歌にフォーカスが当たるんですね。ということで、今回のプレイリストはこの映画のメッセージやフィーリングを日本の暮らしに馴染ませたらどんな歌がそこに相応しいだろうか?ということを考えながら選曲しました。邦題の『愛おしい時間について』って良い意訳ですよね。このプレイリストも良い意訳だと感じていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

Post Script

 今回は『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』をご紹介しました。個人的にこの作品は「人生の節目で必ず鑑賞している」作品で、目的なくただ人生に漂っている感覚に陥った時や、どうにもモヤがかかって前に進めないな……という時にDVDを引っ張り出し、つい忘れがちな「人生に対するある視点」を思い出すようにしています。その視点とは要約すると「何気ないことのかけがえなさ」という訳なのですが、より多面的に、その言葉を自分の人生に落とし込むためのヒントが本作には多く含まれているように感じます。

 余談ですが、本作を観ていると自分の冠婚葬祭プレイリストを無性に作りたくなります。もちろん、本作のサントラからも数曲選ぶ形で。特にTHE BLUE NILEのPaul Buchananによる「Mid Air」、NICK CAVE & THE BAD SEEDS「Into My Arms」あたりは必須です。THE CURE「Friday I’m In Love」もいいですね。次回で本連載も最終回となります。今なお“ステイホーム”の日常は続いておりますが、最終回も家時間の余暇を満たすばらしい映画と音楽をご紹介したいと思います。それではまた来月お会いしましょう。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
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2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。目下最新シングル『Never to CDG (feat. Eminata)』を5月19日(水)にリリース。